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Money Clip

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自社株買い発表企業の株価パフォーマンス

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3月末決算企業の決算発表が進む中、自社株買いを発表する企業数は高い水準を保っている。
では、自社株買いの実施(予定・検討)企業の、発表後株価パフォーマンスはどうなっているのだろう。

自社株買い方針発表時には当該企業の株価は人気化するケースが多いが、その後も株価が発表後の勢いを維持する会社や、自社株買い期待が裏切られて株価が急落する企業などパフォーマンスは様々だ。
ここでは、最近自社株買いのニュースが発表された企業をいくつか例にとって、自社株買い発表企業の株価パフォーマンスを考えてみたい。

自社株式取得とは

自社株式取得とは、上場企業が自ら発行した株式を取得することを指す。
株式公開会社のうち上場企業の自社株取得方法は、原則として証券取引所取引により行われる。公開買い付け(TOB)以外の市場外取引は禁止だ。(法人株主は市場で自社株買いに応じるより、課税上の利点から、TOBの方が有利な場合がある)

通常は、自社株買いの株数、取得価格およびその目的・意図する効果等を定時株主総会に付議し決定する。
決議内容は公表されるが、一般に総会提出議事を取締役会が事前に決定するので、通常は企業の自社株買いのニュースは取締役会の議題決定後(総会前)に公表される。

さらに自社株買いを決議後、実際の買い付け実施を取締役会で決定した場合、買い付け株数や買取価格等を条件付きで代表取締役に一任するのが通例だ。(実質的には相場状況等から財務担当者が株数、購入時期を判断して実施する)
なお自社株買いの公表があっても、実際に企業が自社株買いを実施する時期等はまちまちで、1日で終了することもあれば期間中の株価推移により断続的に実施する場合もある。さらに、実施しないケースもあるので注意が必要だ。

自社株買いの目的

自社株取得には、商法により企業の利益消却・使用人への譲渡・譲渡制限自社株の相続人からの取得という目的が規定されていたが、平成13年の商法改正により「新株予約権制度」が創設され、新株予約権(ストックオプション)が活用しやすくなった。

新株予約権とは、それを発行した株式会社に対して権利を行使することによって、その株式会社の株式の交付を受けることができる権利のことです。新株予約権証券の所有者は、新株予約権を行使して、一定の行使価格を払い込むことで、会社に新株を発行させる、または、会社自身が保有する株式を取得することができます。
新株予約権は、従来の転換社債(CB)の転換権部分、新株引受権(ワラント)、ストックオプションなどの総称です。この権利を表した証券が「新株予約権証券」です。これまでの新株引受権の制限を緩和してできた新しい制度で、2001年の商法改正(2002年4月1日施行)で導入されました。

引用:smbcnikko.co.jp


ストックオプションは社員のインセンティブ喚起等に大きな意味を持ち、その判断を行う企業の姿勢も興味深い。(本稿では利益消却目的の自社株買いに焦点を絞る)
なお、当然のことながら、自社株取得には、取得期間や決議された利益処分額とは別に「期末の純資産額見込み額の範囲内」でなければならない等の法的な制限規定がある。

利益消却目的の自社株買いで予想される株価上昇理由

企業の手元資金に余裕があるなどで、利益消却のために自社株買いを決議した場合、その会社の株価は下記のような理由で上昇することが多い。

1. EPSの上昇に伴う値上がり

自社株買い実施で発行済株式数が減少すると、一株利益(EPS)が増加する。
理論上はEPSの上昇は、企業価値の向上とはならないが、株価指標にPER(株価÷EPS)が重視されているため、PER変動がなければ、EPS上昇に株価が連動しやすい。(株価が上昇する)

2. 株主還元(配当性向等の改善)期待による株買い

最近の企業の自社株買いについては、一般投資家は経営陣が株主還元に対して前向きと評価することが多い。(自社株買いと同時に配当増加を発表する場合も多い)
投資家は、企業の利益を成長投資に使わないなら、株主還元を期待する傾向が強い。
そのため、自社株買いが株主還元重視と受け止められ、発表後に株が買われる。

3. 需給バランスの改善(期待)

上場企業の株式は、金融機関や取引先等の持ち合い保有や、従業員持ち株会などの安定株主が一定割合存在している。(安定株主は、日経会社情報記載の「特定株主」割合等を参考に推計可能)
自社株買い実施は発行済株式数に占める安定株主割合が増え、流通株式が減少するので、株価が上がりやすいという期待で株価が上昇する場合が多い。(だが、理論的には浮動株数減少で、必ず株価が上がるわけではない)

自社株買い発表企業の実例

自社株買いやその意向を発表した企業の、発表内容とその後の株価推移等をいくつか検証してみたい

1. ブリヂストン(5108)

ブリヂストンは、2016年11月27日、自己株式の取得と消却を発表した。
発表直後に株価は一時6%高の4575円まで上昇した。
自己株取得額は1500億円を上限とし、発行済株式総数の最大6.4%の自己株取得予定で、資本効率の改善、企業価値向上を目指すものだった。
(自己株取得資金等への充当のため、社債発行も予定)

ブリヂストンの前期決算は、円高影響で減収減益だが、翌期業績は増収増益予想だった。
その後の約半年の株価推移をみると、発表後の高値から日経平均と連動性を保って約500円下落したが、2月17日の決算発表後に窓を開けて上昇して前回の高値を上回り、以降は相場全体の動きにほぼ連動した堅調な動きを示している。

2. 楽天(4755)

楽天は2017年2月21日に1000億円を上限とする自社株買いを発表した。
株価は、翌日には商いを伴って一時前日比12%高の1158円まで100円近い上昇を示した。(12月決算の同社の2期連続の減益決算見込みを嫌気した売りが直前まで継続していた)
同社三木谷社長による「足元の株価は割安で、我々の想定する企業価値と大きな開きがある」(日経新聞報道)というコメントが好感された形だった。

その後の株価もおおむね相場全体の変動と同様な動きを続け、第1四半期の好決算見込の発表で、一時年初来高値を更新する勢いを見せた。
売り上げ増で、利益減少という本業(競争激化のEC事業)の割に好意的な株価の反応からは、自社株買いの効果が寄与している可能性もありそうだ。

3. 三菱地所(8802)

三菱地所が2017年5月11日に発表した前期連結決算では、純利益が23%増、1026億円の過去最高益で、期末配当も増加した。
今期最高益更新も予想し、業績好調とみられる、意外にも翌日の市場は、株価の大幅下落という反応になった。

決算発表の翌日に発表した同社中期計画に「経済の状況や自社の株価等を総合的に勘案し、必要に応じて機動的に実施」するという一文があったのが下落理由らしい。
従来から自社株買いに消極的だった同社が、初めて自社株買いの方針を発表したのだが、方針のみで、実施規模や実施時期には触れなかったことで、一部にあった「自社株買い期待」が裏切られ、中期計画発表後から株価が下落し、引け値は100円を越える下げ幅だった。
三菱地所の資産規模は時価ベースで4兆円を越え、実質PBRは1倍以下と観測されており、株価は企業価値以下だ。同社の株主還元姿勢は株式市場では評価されなかったようだ。
自社株買い見送りという同社の姿勢は、余剰資金利用に、市場での評価よりも、成長投資を優先するものだ。

だが、中期計画の営業利益目標の内容は、東京オリンンピック後の安定成長のために手元資金を成長戦略に向けるとの意向のみで、30%程度の配当性向に加え、増配方針もあったが、余剰資金の使途に対する投資家の評価は厳しかった。
「自社株買い」に姿勢は発表したが、実施未定という同社に対し、現実の自社株買いを求める声は、さらに高くなるかも知れない。

4. 三菱ケミカルHD(4188)

三菱ケミカルHDは、通常の利益消却とは異なる財源により自社株買いを行うと発表した。市場の注目は、社債発行で得た資金の一部をこの自社株買いに充てるというニュースだった。

2017年3月14日の発行済み株式数の2.3%、約300億円の自社株買いの目的は「経営環境の変化に対応した機動的な資本政策を遂行するため」と発表された。
ただ、その資金としては、内部留保ではなく約1500億円のユーロ建て転換社債(CB)の一部(約300億円)を取得費用にあてるというものだ。

発表後、同社の株価は、CB発行による将来的な株数増加(希薄化)を嫌気した機械的に売りに加え、相場の弱い地合いもあり、一か月近くで約10%下落したが、その後は日経平均につれて反転上昇し、5月には年初来高値を記録した。
ただ、市場平均との対比では自社株買いの影響はあまり見られなかった。

また、5月12日発表の、2017年3月期連結決算では、本業の「コア営業利益」が前期比2%増の3075億円で、減益予想から一転増益となり、会社側は次期業績も強気だったが、翌営業日である15日の株価は大きく下落した。
これは、相場地合いもあったが、前期の減収が嫌気されているようで、軟弱な株価の動きには、特定株主を除いく総株数の約3%の自社株買いの影響は、ここまでは少ないようだ。

自社株買い企業の株価パフォーマンス

一般的には、「自社株買い」発表の需給改善期待とアナウンスメント効果で、発表直後に株価が急上昇するケースが一番多いのかも知れない。その後、株価の上昇は限られ、下落することも多いのは、需給改善効果は発表後の急騰で織り込み済みとなる場合が多いからと思われる。

過去には、自社株買いを発表した企業は(インサイダー規制が厳格でなかったこともあり)発表直前に急騰し発表後急落することもあったが、現在は発表後に急騰し、その後「材料出尽くし」観測により反落するケースもが目立つ。
自社株買いの株価に対する影響は、発表直後に多い急騰を除くと、結局自社株の内容や目的、企業自体の業績等に左右されるケースが多い。

上記4社の企業実例に見られるように、自社株買い発表後の株価パフォーマンスは、自社株買いの規模や目的、実施方法等によって影響が異なり、また業績見通しが同時に発表されることも多い。
これらの多様な要因で株価が形成されるので、自社株買い発表前後の急変を除外すると自社株買い企業の株価は期待ほどの需給改善効果もなく、おおむねその他の指標等で株価が形成されていた。

結論として自社株買いそのものを材料として、企業への投資を考えるのは意外に難しいかもしれない。
企業が得た利益は、本来はさらなる成長に向けた投資(設備投資やM&A等)に利用され、ROEの向上が、配当性向の上昇に繋がり株主にとって最も望ましいことであることは言うまでもない。
最近の米国市場においても、社債による資金を自社株買いにあてる企業は、成長投資の力がないということで評価が低い傾向にあるようだ。

株価対策に近い安易な自社株買い(増配含む)には短期的な株価上昇効果はあっても、生み出した利益による余剰資金(内部留保)の利用方法が見つかっていないことを示す場合もあるので、当該企業の発表内容や発表タイミング(例えば株価急落への反応など)に加え、資金計画も勘案する必要がある。
ただ、最近急増しているとはいえ、利益消却目的での自社株買いを行う企業は(未実施の企業に比べ)株主利益を意識していることは言えそうだ。
自社株買い発表を契機として、改めて当該企業の成長性と利益還元姿勢を見直す姿勢が、高い投資パフォーマンスの実現に有効なのかも知れない。

www.toushi-radar.co.jp
www.toushin-1.jp

 

参考:取得自社株の株式償却

利益消却を目的として購入した自社株は、ストックオプションで利用できる自己所有株(金庫株)として保有するケースなどもあるが、基本的に償却されることを前提に実施する場合がほとんどで「自己株式の消却」が実施される。
自己株式の消却とは、自社株買いで取得した保有株を消滅させることで、償却による会社の価値自体には変動がない。(既に自社株購入時に代金支払済であり会社資産総額に変動はないからだ)
しかし、現実的には株価のメリットと捉えられる場合が多い。
自己株式保有状態を続けている場合、今後の経営状況等により自己株式がストックオプション等消却以外の方法で処分される可能性があり、消却処分による経営姿勢(自社株取得方針)が明確(確実)になるからだ。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。