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“ももクロ vs リノベーション” 私鉄新戦略から見える経営姿勢

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出典:tokyu.co.jptobu.co.jp


首都圏の私鉄にも、少子高齢化や製造業不振の影響が及んでいる。
田園調布・横浜等の人気住宅街をテリトリーとし、前例のない革新的な駅・地域連携戦略を始めた東京急行電鉄(9005)と北関東に展開した広域路線を持つ東武鉄道(9001)の斬新な駅名戦略・東北との連携強化という2社のエリア戦略を比較し、私鉄経営戦略の行方を占う。

首都圏の私鉄

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出典:blogs.yahoo.co.jp


首都圏ではJR東日本の路線と都心部をきめ細かく結ぶ地下鉄(東京メトロと都営地下鉄)に挟まれ、採算性の良い人口密集地での路線拡大が制限されている。
そのため近年の首都圏私鉄各社は、路線拡大よりJR・地下鉄を含む相互乗り入れにより利用客の利便性を高める方向性を強め、複々線化や高架等も併せ輸送力の増強によって、収益を高める戦略が目立つ。

例えば、東武東上線と東急東横線・みなとみらい線の相互直通運転は、間に東京メトロ副都心線を挟んで、埼玉県西部から新宿副都心、横浜に至るルートだ。
開通によって利用客の利便性に加え、沿線の路線価(主に東武路線)が上がるという副作用も生まれ、並行路線の減収などのマイナス要素を乗り越える相互乗り入れメリットを感じさせる効果が生まれている。
こうした状況の中で、最近発表された東急と東武二社の対照的な経営新戦略を比較してみたい。

www.tokyu.co.jp
www.tobu.co.jp

東急の現状と新戦略

東京急行電鉄(東急)は、私鉄企業グループとしては最大規模だが、路線長は100キロ程度である。ローカル路線を持たず、人口の集まったエリアを営業路線に持つ強みが、高い企業イメージも含め大きな強みとなっている。
前身の田園都市開発による大正年間から始まった田園調布等の宅地開発と路線敷設戦略の成功に象徴される不動産事業と鉄道の融合事業は現在も、渋谷駅の大規模再開発に見られるように、基本的に地域開発が中心戦略となっている。

こうした中で、営業路線の中で地域特性等から比較的戦略的な資本投下の少なかった池上線に、ユニークな取り組みが生まれた。
それがリノベーションスクール@池上線だ。
これは、沿線付近の遊休不動産活用による新ビジネスを路線周辺に展開し、エリア再生の実践とする試みという。
池上線は、五反田駅と蒲田間の約11キロの路線で、当初、池上本門寺参拝客用に開業していた別会社の路線だった。池上駅周辺は、住宅と工場が共存する「住工調和」文化の地と言われていたが、近年、工場数の減少(就労人口減少)等が目立ち、沿線の空家は15%程度に上る高い空家率だ。

買収により東急グループ傘下となった池上線は、旧目蒲線(現:目黒線と多摩川線に含まれる)とほぼ並行しており、東京圏私鉄路線には少ない東京メトロとの相互乗り入れのない路線で、利便性(路線間の乗換等)の低さもあって、比較的規模の小さい町工場や地域住民の利用に限定された路線であり、利用客や路線価の低迷が課題となっている。
この課題解決に、(対象地域内の建物を解体撤去する方式の)再開発に頼らないまちづくりをスタートさせるという意図で、民間事業者としては初めてのリノベーションスクールを2017年3月に開催した。

リノベーションスクールとは?

renovationschool.net


人口減少時代の日本は、750万戸の空き家があり、2060年には空き家比率が50%を越えるという予想がある。
地方商店街のシャッター通り、商業ビルに「テナント募集」が目立つ経済低迷地域に「もっとまちを面白くしたい」「できれば仕事を通して何かしたい」という発想から、地域内の空き家・空きビル等の未活用物件を再利用する仕組みづくりを考える“リノベーションまちづくり”が提唱された。
語学の学習に文法習得が欠かせないように。街の文法を学び「リノベーションまちづくり」を事業展開するための「リノベーションスクール」は、既存物件を利用した都市・エリア再開発事業の場だという。

re-re-re-renovation.jp


東急電鉄は、大規模な資本を投下して再開発事業を継続している渋谷マークシティ、渋谷ヒカリエ、2027年完成予定の東横百貨店・駅ビル改築等のプロジェクトと並行して、大規模再開発が困難で、比較収益力の低い沿線に新しい価値を創造するために、どちらかと言えば地方・経済停滞地域に多くみられる地域一体型活性化事業を、東京都心の路線に展開する方針だ。

東武の現状と新戦略

東武鉄道は、明治の創業期から北関東を中心に当時の国鉄に挑戦する形で東武日光線や現在も私鉄最長区間である伊勢崎線等を広範囲に建設し拡張路線を続けていた。
だが昭和7年の桐生線以降は新規路線開発を止め、戦後の高度成長期からは、沿線の宅地開発と複々線開発を営業戦略の中心に据えている。

現在も関東圏に500キロ近い営業路線を持つ東武鉄道だが、近年は東京スカイツリー建設に合わせ、イメージ戦略と不採算のローカル路線の活性化に力を入れているようだ。
そのイメージ戦略の象徴的な事例が、東上線ふじみ野駅の「ももいろクローバーZ駅」だ。

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出典:tobu.co.jp


ふじみ野駅東口の駅名看板を「ももいろクローバーZ駅」とした期間は4月5日から5月7日までで、沿線の富士見市制施行45周年記念事業の人気アイドルグループコンサート「ももクロ春の一大事2017in富士見市」とのコラボレーション企画を行い、ふじみ野市出身のメンバーが同市のPR大使を務めている。
期間中は、5編成の東上線車両にメンバーの顔写真をヘッドマークにした「ももクロ号」を運行した。

trafficnews.jp


他にも東武鉄道のイメージ戦略として、2012年には東京スカイツリー建設にあわせた路線名の変更(伊勢崎線→東京スカイツリーライン、野田線→アーバンパークライン)を行った。

最近では、日光方面にSL「大樹」を運行し、SLの復活運転、昭和のレトロ感を感じる下今市駅(出発駅)の駅舎改修、「昭和レトロ・ノスタルジー」を基本コンセプトとする制服の刷新など、昭和レトロ・ノスタルジーの世界観を演出するという、多様な取り組みを続けている。(SL機関士等の新制服は、SLの作業着と馴染みのある「ナッパ服」がベース)

また新規利用客増加を狙い、同じ日光・鬼怒川方面に、新規開発車両による特急「リバティ」を運行開始(1日4編成、4月21日から)し、野岩線を経由し、会津鉄道「会津田島駅」までの直通運転を行っている。
直通特急による東北地方へのアクセス向上で、新規観光客の集客増加を狙った試みだ。
社内には他社路線内のトンネル通過可能な新型車両投入について、コスト面から懸念の声もあったようだが、新特急の出足は今の所好調で東京方面からの新特急利用観光客は、2017年のGWウィーク中の各観光地(会津地方)では前年に比べかなり増加している。
同時に、草駅からの通勤利用拡大に、アーバンパークライン等で大宮方面や千葉方面への直通運転を新設した。

toyokeizai.net


東武鉄道の経営戦略は、大資本の投下は避けながら、比較的地味な印象を持つ北関東の沿線においても、イメージ戦略と新特急投入などで新規利用客・新規需要の拡大を狙った、多角的で斬新なものだと思われる。

私鉄戦略と今後の日本経済

東京一極集中の日本経済において東京圏の私鉄経営は、高い新線開発コストと上限に近い人口集中という条件下にあり、収益拡大の方針が多様化しているようだ。
前述の相互乗り入れにより、東急・東武両社に利用客増加(単価アップ)や路線価上昇があったように、都心の路線は相互乗り入れ拡大により収益性・利便性の上昇が続く。

これに対し、相互乗り入れに制限がある一部路線やローカル線には採算性の上昇が困難だ。
東急・東武両社の取り組みは、方向性に違いはあるが、ともに「新たな価値」を自社沿線に創造しようという前向きの取り組みではないかと思える。
2020年の東京オリンピックと、海外からの観光客急増という状況下、関東圏の私鉄においては今後の経営判断が、私鉄経営のみならず、沿線の地域経済活性化にもつながる重要な局面を迎えぞうだ。
人口減少とデフレ継続という厳しい環境下で、大手私鉄に見られる地域再生型戦略、イメージ型需要喚起戦略が収益性の向上につながるかどうか、今後の業績変化に注目してゆきたい。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。