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国民年金・生活保護農家からAIへ?高齢化農業の課題と未来

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農業の高齢化は深刻化を通り越して、すでに危険水域にあると言われている。
今後10年、20年経過後の過疎・高齢化の村と農業の将来を憂慮し、日本経済への影響を心配する声は大きいが、その解決策についてはまちまちのようだ。

ここでは高齢化の進む農山村の農業を担う年金世帯、生活保護世帯を含む農家の「農」に掛ける思いと厳しい実情、そして打開に向けた地域の取り組みの実態の実例から、厳しいながらも新たな取り組みに前向きな農山村の現状から見える日本農業の今後を占う。

高齢化・限界集落、農山村の農業は今どのように維持されているのか?

農業従事者の高齢化

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出典:maff.go.jp


農水省の統計では、平成7年には60歳弱だった農業従事者の平均年齢は、平成7年には64歳を越え、平成22年には66歳余となっている。
但し、直近の統計でも67歳弱と高齢化傾向がやや弱まっている。
これは、専業農家数が、5年前(2012年)より5%近く増加していることから推測できるように、サラリーマン等の兼業農家から、退職を機に専業農家となって、基幹的農業従事者となっているケースが多いからだ。

限界集落とは

限界集落は、小規模な集落が過疎化により労働力や生活能力を失い、共同体機能が限界状態の集落や将来そうなると予測される集落を指す。
その定義が「人口の50%以上が65歳以上の集落」とされるのは、限界集落は人口の5割以下でしかないの若年層労働力に頼ることになるためだ。

blogos.com

日本有数の高齢化進行中の農村事例(高齢化農山村の現状と課題)

こうした農山村の一例として、筆者が定期的に滞在する東北南部のある過疎の村の農業実例から、過疎に悩む農山村農業の現状と課題を紹介する。

過疎の村

この村の人口は約1300人で30年間でほぼ半減し、高齢化率(65歳以上の割合)も50%を越えている、既に「限界集落」の定義に当てはまる農山村だ。
主産業は農業だが、農業従事者の多くが65歳以上で、その大半が老齢基礎年金受給対象者となっている。このため生計維持を目的とした農業生産の規模は縮小傾向にある。
※平均的世帯の申告所得の大半が農業所得以外の所得となっている

農山村世帯の所得と年金

高齢化の進む農業従事者の中には、生計を維持する規模の農業生産維持が困難になり、国民年金未加入のため生活保護の対象となっている世帯も全世帯の数%程度になっている。(年間支給額等から推計)
加齢や身体の障害等で物理的に営農継続が難しい世帯も増加し、そうした世帯の倉庫や既に廃業した農家の納屋に山積みされている新品同様の農機具等の行方も、農協への残債が残るケースもあり憂慮される問題だ。

過疎の農山村における農業の担い手

では、この村において農業の生産規模が大幅に縮小しているかというと、そのような実態はない。
村の景観を見ても耕作放棄地などはほとんど目立たず、コメや野菜、地域特産品の生産は人口が倍以上あった1980年代とあまり変わっていない。この生産を支えている主体が二つある。

一つは、高齢世帯の限定的な農作業継続だ。
ふるさとの風景が荒れるのは許せない・嫌だという思いは農家共通の意識で、生計や採算を度外視し集落周辺の農地限定で耕作を続ける世帯が多く存在する。年金受給等により採算点割れの規模でも農業継続が可能になっている構図だ。「村のかたちを守る」意識が地域保全的な農業の成立理由だ。
この意識は農業従事者以外の村民も共有しており、その表れとして注目されるのが二つ目の事業主体であるコミュニティによる営農だ。

コミュニティと地域の農業

営農継続希望は強くても、従事者の死亡や疾病・加齢の進展により農家が営農不可能になるケースが断続的に発生しているが、この村では村が設立する第3セクターがそのまま農地の耕作を受け継ぐシステムが出来上がっている。
3セクの構成員による営農支援のシステムは、地域のニーズと実情を踏まえた合理的なものだ。

耕作者不在の田畑を同様に余剰化した農機具を使い、社員が引き継ぐという事業は村内に点在する利用地に計画的な農作業を進め、農繁期には村内の営農者の協力や定年退職等で村外から帰還や移住した住民が農作業を行い、無駄を省いた農作業が可能になっている。

「耕作放棄地管理」型と呼ばれるこのタイプの第3セクター法人は、農水省の調査でも全国的に従来型の「農作業受託」型の割合が低下する一方で、最近急激に上昇しているようだ。
機械では収穫できない四隅の稲を手作業で収穫する作業などは、高度差がある村内農地や作柄状況に応じて定年退職後の年金生活者の支援なども含め、柔軟な人員配分で効率的な作業を進めている。

この3セク法人では、昨年度地方税の住民所得割総額を上回る年間収益をあげた。
〔法人で農業経営を行う組織を「農業生産法人」と呼ぶ。出資者に農地所有者や農業従事者がいる必要があるなど、設立に一定の制限があるが年々増加しており、2012年統計の法人数は全国で13000件近くに達している〕

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出典:hojin.or.jp

高齢化農業の課題

実はこうした取り組みは、東日本よりも西日本で先進的に始まっていた。
平成の市町村大合併の動きで激減した町村数だが、合併によりむしろ農村の過疎化は進行し、総務省等の過疎化調査でも、過疎地域内の集落の消滅可能性集落は4%を越えており、西日本の中山間地域では、3倍から6倍に上るという。
これは、西日本の過疎化や高齢化の進展が早かったことと、市町村合併の規模が比較的大きく、結果として過疎地域の地盤沈下が大きい自治体が多かったからだと言われている。

過疎化に伴い、世帯平均の所得も減少傾向を示していたのは、兼業農家の所得減少が理由だと言われていた。
こうした状況に危機意識を持った中四国地方の過疎地域では、地域コミュニティによる様々な法人が作られ、農業支援以外にも、農村レストランやガソリンスタンド・地域産品販売所の経営や、地域の伝統芸能公演やカルチャースクールなど様々な取り組みが、次々に実現している。

www.agri-navi.com

農家の事業継続とAI農法が築く農業の未来

こうした状況下で、最近、新たな取り組みが模索されている。
「AI農法」による、農業技術の承継だ。
筆者も農家の知人より聞き取って知ったことだが、農業は多くの経験と地域毎に異なる固有の知識があって初めて成り立つ複雑な知的労働の様だ。

1. 水やり10年(熟練農家の技術承継)

「水やり10年」という言葉がある。農業は10年経験してようやく一人前という意味で、実際に農業に必要な知識・経験の習得には平均で2万時間が必要だと言われている。
農作業は工場労働などに比べると、同一労働内容の繰り返しは意外に少なく、状況に応じた臨機応変の作業が多い。
初心レベルの農家に比べて数倍の収益を上げる熟練農家には、適切な水やり方法だけではなく、気候・気象の変動、作物の生育状況そして高収益を得られる作物の選定や播種比率・病虫害対策等、毎年変わる条件下で地域ごとに異なる複雑な作業過程を適切に運営する能力が必要だ。

2. 日本農業の生産効率

こうした高度な熟練農家のノウハウに支えられ、日本の農業生産効率はカロリーベースで米国の10倍、農業先進国のフランスに比べても3倍も高い生産性を有している。
「農地法」の再改正等、色々な前提条件はあるが、専業農家の高い技術力に適切な資本提供があれば、外国産品に対抗できる農業生産は可能だと話す農家も多く存在する。

3. AI農法

2009年、農水省は「農業分野における情報科学に係る研究会」を開催し、熟練農家の技術を情報科学の対象とする試みがスタートした。
その時点では、農業技術のデータベース化や農作業データの数値化等が対象となっていたが、最近の「ディープラーニング」が可能なAIの登場で、「AI農法」への期待が高まっている。

従来は膨大なデータの集約が困難で実現していない後継者向けの農作業マニュアル化に代え、熟練農家の技を解析し、地域・経済・気象等の膨大で時間単位で変動する条件に対応したAIが、ディープラーニング技術で可能となった。
AIには、生産に関連する変数や生産地や銘柄等の判断に加え、熟練農家の知恵を取り込み、初心農家や農業法人に分厚いマニュアル不要で、マニュアル以上の有益なアドバイスを適時行いながら高い収益を生むことが期待されている。

農場や生育状況の僅かな変化をデータベース化して、病虫害対策や出荷時期の判断を行うことは、既にオランダなどで一部の作物についてスタートしている。
オランダの場合は、工場生産に近い均一条件下の試みだが、日本では本格的な熟練農家の聞き取りによる国内全地域の営農ノウハウをビッグデータとして収集し、農業初心者や農業法人の生産においても高収益を上げるAIの指針を用いたAI農法の検討が一部で始まっている。

4. AI農法の優位性

実例も増えてきた工場生産による農作物は、熟練農家に比べると意外に生産性が低い。さらに工場建築コストの高さも考えると、当面は農家の減少に代わる生産手段となるのは難しそうだ。
これに対し、AI農法は専業農家に移行した兼業農家や新規参入農家、3セク農業法人等が、既存の田畑・農機具等の資源と営農ノウハウを利用し、低コストで高い生産性を提供できる。

出来るだけ早い時期に日本農業の高いレベルを次代へ引き継ぐためには、前述した農作業範囲を集落近辺に縮小して農作業負担の比較的少なくなっている無年金や低収入の高齢化農家から、早い段階で聞き取りや技術継承を有償で行ない、データベース化することによりAI農法の様な熟練者以外でも高収益の農業経営を可能にする有効な施策が農村福祉の観点からも望ましいということだ。

日本農業の今後

1999年に制定された「食料・農業・農村基本法」は、従来の農家所得確保に重点を置く体系から、国内の食料生産の確保が大きな目標として掲げられている。
こうした目標のためには、前述の熟練の技法を受け継いだ新しい農業を展開することが収益性・生産性向上のためにも今後ますます求められるだろう。

米国抜きの「TPP11」の交渉が始まった。
日本の農産物は過保護であるという論調もあるが、農産物輸出に関しての輸出補助金(米国は100億ドル規模)はなく、関税もEU諸国より低い種類の作物が多く、米を除けば決して輸出奨励措置は高い水準ではない。
だからと言って、TPP11発効後、日本がいきなり食糧輸出国になるのは困難だが、日本の農業を破壊すると批判されてきたTPPには、日本農業の変革を促すエネルギーにもなりそうだ。

www.nikkei.com

 
TPPについては様々な議論もあり、米国の離脱によって実現も危ぶまれているため、ここでは詳細な内容には触れないが、TPPのような自由貿易・反保護主義的体制の中で、高品質で、生産性の高い日本の農業を維持・継続することは、将来的な国家経営戦略にもつながる重要な問題だと考えている。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。