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じゃがいも不作でポテトチップス業界に大ブレーキ、カルビー&湖池屋の戦略

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出典:calbee.co.jp  koikeya.co.jp

菓子製造・販売大手のカルビー(2229)は今月初め、昨夏の台風の影響による北海道産じゃがいも不作の為、ポテトチップスの一部商品を販売終了や休止することを明らかにした。
同じく業界大手の湖池屋(2226)も、すでに高級ブランドのポテトチップス販売休止を発表している。
じゃがいも不作と主力商品の販売縮小に揺れるスナック業界の今後の業績や、株価への影響はどうなるのだろうか?原材料不作、販売縮減等の推移とメーカーの対応等を占う。

日本のじゃがいも栽培

小麦、トウモロコシ、米に次ぐ世界4位の栽培面積のじゃがいもは、世界中のほぼ全域で栽培されている。野生種の起源は南米大陸だが、18世紀初めから日本での栽培が始まり、気候風土が適応する北海道が最大の産地となった。
明治以降、カレー・コロッケ人気でじゃがいも栽培量は飛躍的に増加し、全国に栽培が広がったが、戦後はコメの生産拡大により、再び国内生産の主力は北海道に戻った。

北海道の年間じゃがいも生産量は、全国生産約250万トンの8割程度を占めている。
だが、2016年の台風被害などで、このじゃがいも生産は大きな打撃を受けた。
北海道内への台風・大雨の影響により、ポテトチップス用じゃがいもをはじめ農産物に大きな被害が出ている。

kaigyou-turezure.hatenablog.jp


農水省によると、昨年9月までに集計されたじゃがいも生産の被害面積は24,000ha(道内総作付面積約63,000haの約4割)に上った。前年の国内調達じゃがいもの約7割が道内産で、湖池屋も生産委託工場の浸水被害により操業を停止した。(毎日新聞報道)

単純計算では、年間のじゃがいも生産が約40%落ち込むことになる。
カルビー社は、2016年下期は、不作の影響を海外からのスポット購入等でカバーしても、なお1割近い原材料不足が発生したと見込んでいる。
2017年度も一定の原料不足が継続するという見通しにより、後述の製品販売制限という結果になったものと見られる。

原料不足でも、なぜ輸入で解決できないのか?

不足分を輸入で補いきれないのは何故だろうか?
過去の病虫害被害発生地である米国等からは全量検疫が困難等の理由で、日本では原則として生食用じゃがいも輸入は禁止されており、国内の供給量が不足する不作期数か月間のみポテトチップス加工用じゃがいも限定で輸入を許可している。
〔中国には病虫害報告はなく規制対象外だが、生産のほぼ全量が遺伝子組み換えじゃがいもであるため、日本への輸入量はゼロに近い〕

www.maff.go.jp


だが、米国からの加工用じゃがいも輸入量も国内生産量のごく一部で、ポテトチップス用のじゃがいもは現状の期間限定という輸入規制下では緊急時の輸入拡大は困難だ。
〔過度な疫病への警戒継続は、米産農産物への非関税障壁とも言われている。米生産農家の要望もあり、今後、日米貿易協議の議題となる可能性は高い〕

ポテトチップスとは

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生産危機に陥ったポテトチップスとは、どんな食品だろう?
フランス料理として18世紀に考案された油で揚げたじゃがいも料理(フレンチフライドポテト)の変形として、18世紀末のアメリカに油で揚げた薄切りポテト「ポテトチップス」が登場した。

faq.calbee.co.jp


当初は料理の付け合わせだったが、真空包装技術の進展と、第二次世界大戦下の肉類・甘味菓子不足で、スナックとしての「ポテトチップス」利用が拡大したのが、普及のきっかけらしい。
今では、世界の半分である約60億ドル分のポテトチップスを米国で消費している。
米国は、若者の野菜消費の3割以上がポテトチップス(フライドポテトを含む)という大消費国だ。日本でも、スナック菓子の人気ではポテトチップスがトップで、日本メーカー独自の多種フレーバー戦略が功を奏し、年々消費が拡大している。

国内のポテトチップスの生産と販売

1. ポテトチップスとじゃがいも消費

ポテトチップス1袋(65ℊ)に必要なじゃがいもは、2~3個(250g程度)だ。
一方、加工食品用じゃがいもは輸入を含む全生産量約380万トンの3割程度の年間約125万トンで、最近は冷凍用加工品が増加しており、ポテトチップス用には30万トン程度が利用されている。
単純計算では、65g換算で年間約12億袋程度のポテトチップスが販売されているとみられる。

ポテトチップス・フライドポテト用のじゃがいもは、生産者から農協等が集荷する契約栽培方式が主流で、栽培面積は計画的に、メーカーとの契約数量から決めた範囲での生産を行っている。
国内生産の加工用じゃがいものうち、ポテトチップス用については、品質基準が高く、でん粉価に比例した価格が設定される。

結果としてポテトチップス用は、ほぼ全量がトヨシロ種(加工用専用品種)という高品質製品であり、こうした品質優先も輸入じゃがいもの利用が少ない理由のようだ。(加工用輸入じゃがいもは、冷凍ポテトフライ等の使用が多い)
このため、青果としての国内じゃがいも価格は海外とほぼ同等だが、ポテトチップス製品は欧米や東南アジアに比べ5割近く高く、ポテトチップスの利益率はスナック類の中でも比較的高いとみられている。

2. ポテトチップス販売制限の状況と経営への影響

カルビー(株)の前四半期決算の公開資料によると、スナック菓子の売上高約1507億円のうち、ポテト系スナックの売上高は946億円(前年同期比0.3%減)と前年同期を下回った。
特にポテトチップスは、馬鈴薯(じゃがいも)調達不足による新製品発売延期等で、572億円(前年同期比2.1%減)と減少した。

www.calbee.co.jp


一方で、同社のじゃがりこ等のポテト系スナックや小麦粉系スナックの売り上げは増加しており、じゃがいも不作が販売制限や売り上げ減少に大きな影響を上げるのは、前述したポテトチップス原料じゃがいもの特殊性が関係していそうだ。

なお、ポテトチップス売り上げ減による利益への影響は公表されていないが、利益率等から推計すると、販売減は数%程度の利益下押し要因ではないかと思われ、5月第2週に予定されている本決算及翌年度の収支見込が注目される。
業界1位のカルビー社の減産による直近の販売制限等の製品名は下記の通りだ。

4月からの販売中止

BIGBAGうすしお味、コンソメパンチ(含むW)、LサイズBAG うすしお味・コンソメパンチ、ピザポテトBIG、ピザポテト、同こっくり明太マヨPizza味、堅あげポテトBIG(うすしお味・ブラックペッパー・プッチ4)しあわせバター。

昨年度

厚切りホットチリ味、フレンチサラダ、しょうゆマヨ、梅味、こんぶしょうゆ、関東だししょうゆ、瀬戸内レモン味、博多めんたいこ味、九州しょうゆ、堅あげポテト北海道バターしょうゆ味、関東だししょうゆ、白えび味、関西だししょうゆ、関西だししょうゆ、九州しょうゆ。BIGの北海道バターしょうゆ味九州しょうゆなども対象となっている他、多くの販売休止製品がある。


業界2位の湖池屋も、不作に加え北海道内の工場が水害の被害を受け、同様の販売制限を行っている。

メーカーは四半期毎に製品入れ替えを行い、限定品発売等を重ねることで高シェアを維持しているため、原料不足による製品品目制限が新年度になって特に目立つ結果となったようだ。
例えばカルビー社の通年業績については、シリアル食品の「フルグラ」が大幅に売上を伸ばした結果、売上高全体は前年同期を上回り増収増益の見込みで、じゃがいも不作の影響は今のところ限定的だ。

今後の見通し

昨年は、史上初めてとなる4個の台風上陸と集中豪雨などにより、50年ぶりの農産物被害に見舞われた北海道だが、2017年度のじゃがいも生産は今のところ平年並みのようだ。
昨年の水害頻発は、エルニーニョの変動等による前例のない台風の北上が主な原因で、今年は現段階では特別な不順は観測されていないことから、平年並みのじゃがいも生産が期待され、中長期的にはじゃがいも生産は安定するものと思われる。

一部報道によれば、品薄の状態は5月以降も継続し、じゃがいも価格は平年の2割以上に高止まりする見通しで、ポテトチップス材料のトヨシロ種手当や緊急輸入の拡大等は難しく、当面は原材料の品薄が続くかも知れない。このため、4月に大々的に発表された新製品の発売停止や既製品の品ぞろえ減少の業績への影響は、継続期間も含め今のところ未知数だ。

一方で、一部商品の販売中止や休止は、昨年度に関してはポテト系スナック全体の売り上げの大幅な減少には直結せず、年間売り上げについてはメーカーの原料確保努力や関連商品の販売努力が功を奏した様子だ。

仮に、早急に極端な原材料不足が解消するか、緊急輸入や他生産地の高品質製品手当等で原材料不足ができた場合には、今回の販売停止等で消費者の新フレーバー(新商品)訴求度が増していることもあり、通年では売り上げが回復し、じゃがいも不作が大幅減収要素とはならない可能性は残っている。

現時点では、最大手であるカルビーの株価は、9月の水害被害判明による急落前の高値水準を回復しておらず、株価が素直に今後の原材料不足を不安視している状況だ。
一方、これまで見てきたように、原材料確保に一定の目安が付き次第、今年度の業績は現状維持か、一転上昇の可能性もあり、その場合は、株価も回復傾向に向かう可能性が高い。

ポテトチップスの明日はどうなる

日本人の好むスナックメーカーの1位がカルビー社で約63%、2位の湖池屋の約19%との合計で、二社で人気の8割を越える寡占状態で、ポテトチップス販売は、大手の動向が市場の傾向を左右している。(ネットリサーチMyVoice調べ)

戦略的な独自フレーバー開発やご当地製品の拡充等で、新たな購入意向をかきたてているポテトチップスだが、今後も消費サイドからの多品種・新製品生産の要請は継続するだろう。
こうしたニーズに応え続けるためには、異常気象の続く昨今でもあり、メーカーとしては、原材料の過半を北海道に頼る生産体制の見直しも早晩必要になりそうだ。

外国からの原材料輸入には様々な課題もあるが、中長期的には輸入拡大も重要な選択肢に入るだろう。
その場合、米国等の大生産地からの輸入には付随的にコストダウンが期待出来るため、消費者にはうれしい結果になるかも知れない。
逆に、原材料不足の影響が長期化あるいは不作が頻発する場合、輸入等の対応策が不調であれば、生産調整対象品目以外の商品やポテトチップス以外のじゃがいも系スナックなどへの影響も考えられ、カルビー等関連メーカーの業績、株価にも当然波及するだろう。関連企業の決算見込み(売り上げ予想)に加え、5月以降の農水省、北海道庁などの公的機関から発表されるじゃがいも等の作況データには、今後も十分留意してゆきたい。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。