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為替市場はEU崩壊を予測するか?ユーロとEUの未来を探る

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フランス大統領選の第1回投票は、事前の世論調査通りマクロン氏が1位となり、3位以下の他候補からの支持表明もあって第2回投票での大統領選出に近づいた。

この結果により値下がり傾向にあったユーロは大きく上昇した。
しかし、今後も火種が残る欧州政治不安は無視できない。こうした状況下でのユーロの値動きとEUの未来を考察する。

EUとユーロ

ユーロの動きを考えるためにも、複雑なEUの歴史と最近の推移を以下に簡単にまとめた。

1. EUの歴史

1951年のECSC創設時には6か国だったが、その後発足したECには英国等も加わって12か国となり、93年に成立したEUにはギリシャや東欧諸国の加盟により28か国まで増加した。
また、1991年成立した統一通貨ユーロの加盟国も19か国となった。
その理念は、基本的にグローバリズムであり、欧州の政治経済統合による「大欧州」を目指すものだった。

2. リーマンショックとユーロ危機

最終的には完全な統合を目指すEU各国だが、3つの政治経済ショックの訪れが、後の「EU懐疑政党」の増加を生んでいる。

第1のショックは1970年代のオイルショックで、現在ルペン党首で話題の仏国民戦線もこの時代に誕生した。
2番目は92年のデンマークショックで、デンマークの条約批准に関する国民投票の否決結果は、それまでのEUの安全保障政策等の「政治エリート主導の統合プロセス」に冷水を浴びせた。
そして3番目がリーマンショックだ。好調だった欧州経済の急降下により、ギリシャからスペイン、イタリアと債務危機と経済不安が広がり、南欧諸国の経済成長率が大幅に低迷し、ドイツ以外のEU全域に不況が訪れた。

この結果、ユーロ危機打開のためとられたECB(欧州中央銀行)のドラギマジックにより、かろうじて金融不安を解消しユーロの信頼を確保できたが、その結果としてのデフレ不況と、債務国に対する厳しい緊縮策がEU懐疑派の勢力をさらに大きくすることとなった。
昨年の英国のEU離脱決定(Brexit)もこの延長線上で、EU離脱志向を増加させる第4のショックといえるだろう。

www.bbc.com
www.newsweekjapan.jp

3. 難民流入問題の背景

EU統合の理念の一つである「域内の往来自由」を象徴するシェンゲン協定(EU域内の国家間出入国審査廃止協定で英国等6か国を除く22か国が協定済)の存在は、結果として域外からの流入者増も、もたらした。

最近のシリア情勢の深刻化による難民大量発生と15年12月の独メルケル首相の難民受け入れ表明により、シリアを含め域外からの難民流入が急速に増大している。
〔元来は難民受け入れを最初の入国地での申請を義務付ける「ダブリン協定」があり、一定の歯止めがかかっていたのが、ドイツの好調な経済も相まって、ドイツへの移民希望者が急増した〕

EUはシリア難民の流入対策として、トルコ国内に難民を還流する方策へのトルコの協力を期待して従来の姿勢を変更し、トルコのEU加盟に前向き姿勢に転換したが、現時点では抜本的な解決には至っていない。

ブレクジットとEUの今後

1. ブレクジットの行方

EUにとっての英国離脱後のベストシナリオは、英国を含むEU域内貿易は現状に近い形のままで、移民規制のみ英国の主張を受け入れ、多額の分担金やその他の義務は従来通り負担させ、EUへの発言権などは一切はく奪する、ノルウェー型に近い解決ではないかと思われる。
英国には受け入れがたい屈辱的な条件だが、これを拒否した場合の英経済が受ける長期的なマイナス影響を考慮すると、ある程度受け入れる可能性はあるだろう。メイ首相が仕掛けた早めの総選挙も、この条件受け入れの下準備であるという見方がある。

www.afpbb.com

2. EU離脱の動き(離脱ドミノの懸念)

このように、名目上は「ハードブレクジット」だが、経済影響はソフトという形で英国離脱問題の解決が達成できた場合、EUの目論見とは逆に、潜在的なEU離脱派の勢いが増すかも知れない。結果として大きな経済的なマイナスが生じないように見えるためだ。

フランスのEU離脱勢力も増大する可能性が高い。英国にとって一番の問題点であった移民問題が解決し、経済的な混乱が少なければ、それを見たフランスの「移民と雇用」問題は再燃しそうだ。
後述するように、その背景には独仏の目指すEUの理念の争いもある。

3. 今後の欧州政治・経済日程

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出典:kozukablog


今年は、仏大統領選の後も、欧州には仏国民議会選挙・上院議会選挙、独連邦議会選挙、チェコ下院選挙に加え、加盟候補国のアルバニアの総選挙がある。
経済的な課題としては7月期限のギリシャ債務返済も重要だ。
さらに、2018年にはイタリアの総選挙もある。いずれも、波乱要素を含んでいそうだ。

EUの理念に関するフランスとドイツの対立

1. フランスが主導してきたEU統合

「フランスはEUの心、ドイツはEUの体」といわれるEUの両輪である両国だが、その役割は異なっている。

フランスが伝統的に目指しているのは、欧州統合の父といわれるモネ(フランス人)が当初目指していた超国家「欧州合衆国」構想ではなく、70年前に当時のドゴール大統領が主導した「国家連合」構想だ。
国家主権を制限し一体化を目指す本来のEU理念とは異なり、現実的な柔軟性のある国家間のまとまりを維持しつつ、段階的に統合を進めるのがフランス流だ。

一方、ドイツは規律を重んじる国らしく、一貫して統制強化・統一制度を好んでいるが、第二次大戦敗戦国の立場もあるため、最終的にはフランス主導でEUの方向性は進んできたのがこれまでの流れだ。

2. ドイツとフランスの対立軸は、財政規律と健全性確保

シュレーダー政権から始まった経済改革が功を奏し「ドイツの一人勝ち」となった経済力をバックに、ドイツは国の財政規律の維持を主張し、2010年の十年計画における就業率目標をいち早く達成するなど、単一市場経済実現のための様々なメカニズム調整を率先して実行している。

一方、フランスはドイツの半分程度のGDP成長率に加え、財政赤字と経常収支マイナス年度を繰り返し、高い出生率による人口増と内需好調の利点を経済に生かし切れていない。
この結果、EUの経済政策でもドイツとフランスの主張が食い違うことが多い。

反EU気運増大の原因とユーロ

1. EUの構造的問題

従来から、EU統一の理念と安全保障や経済に関する加盟国の思惑の違いは、ヨーロッパの南北問題とも言われる対立があり、そこに最近の難民流入問題が発生し、反EU勢力(極右政党、急進左派など)の人気が高まっている。
この問題は、EUの構造的問題との関わりもありそうだ。

グローバリズムの名によるEUの拡大と統一の進展は、賃金・所得格差の拡大とドイツ以外の国々での若者層の失業深刻化を生んだ。これに、移動自由であるEU内東欧諸国からの域内移動が拍車をかけており、難民や移民問題発生以前の仮想統一国家ゆえの域内雇用構造が原因なのだが、難民流入問題は攻撃しやすいこともあって、反EU勢力の攻撃の的となっている。

わかりやすく言えば、経済好調で給与の良いドイツやユーロ未導入のスウェーデンなどに優秀な人材と資源が集中し、結果として経済不調となった国の雇用が失われているのだが、域内自由往来はEUの根幹でもあり、否定できないことなので難民・移民がやり玉に挙がっているようだ。

2. ドイツ経済の利点

では、なぜドイツの経済は好調なのか?
経済政策や国民性、東西ドイツ統一後の頑張りなどいくつか理由はありそうだが、ユーロとの関連で忘れてはならないのが、ドイツ単独ならかなり高いはずの通貨水準が、域内国家経済力の平均値で決まるユーロで貿易出来るため、ドイツ本来の経済力よりもかなり安い通貨レベルの為替レートで輸出可能なことが大きい。
つまりは、本来の為替レートから何割かダンピングしたレートで輸出が出来、結果としてドイツの大幅な貿易黒字が生まれていることになる。

「EUの未来」メインシナリオとドイツ中心のEUにおけるユーロ

1. 今後のEU統合のメインシナリオ

直近のフランス大統領選挙でも反EU勢力の得票率は4割強にとどまった。最新の調査では経済危機下のギリシャ・キプロス及び英国に次いで4番目に反EU意識が高いとされたフランスだが、まだEU支持勢力も根強い。

www3.nhk.or.jp


今後の政治日程等で、オランダの選挙のように直近する移民問題に対し現実的な政策をとることで、EU支持の既存政治勢力が勝利を続ければ、EU統合のスピードは遅くなっても、かえって着実な進展の道を進むかもしれない。
今のところユーロ相場の動きは、これをメインシナリオとしているように見える。

2. ドイツ中心のEUにおけるユーロ

イタリア選挙までに再び反EUの動きが強まり、イタリア発のユーロ圏崩壊やEU加盟国の離脱ドミノが起こる可能性もゼロではない。
この場合、短期的にはユーロは暴落するだろう。

しかし、ユーロ圏が最終的にドイツを中心とした経済好調・財政規律重視国家が中核として残る形になれば、理論的に現在よりもむしろユーロ高になっても不思議はない。
ひょっとすると、欧州の政治経済混乱にも関わらずユーロが対ドルでは意外に堅調であるのは、こうした要素も一部織り込んでいるのかもしれない。

終わりに ユーロと日本経済

相場は、未来を読んで動くとも言われる。
EU再編とドイツ経済圏の確立となるのであれば、今後もユーロは経済等の振幅よりは抑えた動きとなる可能性も考えられるが、その場合でも様々な混乱と経済的な激動があるだろう。

では日本はどのようにあるべきだろうか。
ユーロの混乱と一時的な為替の激変は、貿易や経済のマイナス要因かも知れない。
だが、そうした観点からも、ユーロ圏との貿易が重要な日本経済にとっては、懸案のEUとのEPA(及びFTA)の早急な締結が、色々な意味で最重要の優先課題ではないだろうか。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。