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円高の不思議。ミサイル発射・国会混迷でなぜ円が上がるのか?

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北朝鮮のミサイル4発が発射された2月12日、円/ドルレートは約30銭円高に振れた。さらに国会への森友学園前理事長喚問後の秘書官FAX公表後、翌週初の為替は1円を越える円高となった。

通常、自国への攻撃懸念や内政混乱は通貨安理由であり、理論的には円が下落するはずだが、「安全通貨」として円相場は即座に円高で反応した。
通貨変動の各種要素を検証しながら、欧州政治の混乱や地政学リスク発生が予想される状況下の円相場を考える。

為替変動要因

為替変動要因は非常に多く、相互に関連しているが、主なものを最近の為替の動きとの関連を重視して下記のように整理した。

1.米ドル固有の変動要素

米国債券金利

米国債については、主に2年債と10年債の利回りが為替に影響する。
その理由としては、外国からの米国債券購入用のドル需要が増加し通貨高となるためだ。
反面、債券金利が低いことは、発行国の信用度を上昇させ、通貨の信認割合が増えるので、他の要素が絡む変動に際しては逆の要素となる場合もある。
教科書的な動きとしては、債券上昇(金利低下)→ドル高となる。

貿易収支(経済的要因)

教科書的な動きとしては、これも貿易収支改善に対し通貨高で反応する。しかし貿易収支赤字が経常化している米国では経済規模が非常に大きく、ドルが基軸通貨であることなどから、ドル高が貿易収支悪化を招くという原因と結果が逆の動きがみられる。
また、ギリシャ危機など日米以外の要因が絡むときは(ほかの要素でも同じだが)ドル高・円高が同時におこることも多い。

政府等の口先介入等

トランプ大統領の「日本は円安誘導」発言のように、政府要人等の発言だけで為替は大きく動く。

2.円特有の変動要素

債券金利

米ドルと同じく、日本の長期国債価格(金利)により円レートは変動する。ただし、ゼロ金利政策、特に10年国債の買い入れによる事実上の金利固定化以降、金利変化は小さく、はっきりした円レートの変動要因となるケースは見られない。

貿易収支

米国と同様に、理論的には貿易収支改善に対し円高で反応する。
だが近年、日本の貿易収支黒字国は韓国や東南アジア相手の数値も大きく、また米国との間では黒字が経常化しており、その大半が自動車輸出であるので貿易収支の結果で為替が大きく動くことは少ない。
しかし貿易収支黒字幅が増大すれば日本経済にプラスであり、円高要因となるのは間違いない。さらに貿易収支変化に途上国破綻など日米以外の要因が絡むときは、ドル高・円高が同時に起こることもある。

日本銀行の金融政策


現在の日銀による金融緩和策の目的は、デフレ脱却・インフレ目標達成とされているが、結果として金利水準を低く保つことで円安ファクターとなっているが、ここまでは日銀政策と為替レートとの連動性は比較的低いことが多かった。

3.その他の変動要素

購買力平価説

国同士で相互に全く輸入関税がない場合、同じ製品の価格は一つという「一物一価の法則」が成り立つ。この法則成立時の為替相場を2国間の購買力平価と言う。
ただし、この場合の為替相場形成は、長期的な結果に反映されるものであり、短期的な値動きは説明できない場合が多い。
原因が特定できない短期変動の理論的な説明として使われる場合もあるが、中長期的な動きは説明できないことがある。
〔なお、購買力平価には、上記の「絶対的購買力平価」と、過去の標準的時点を起点とし、インフレ格差から均衡為替相場を算出する「相対的購買力平価」がある。また、期待インフレ率等についても留意が必要だが詳細は別の機会としたい〕

地政学リスク

最近の円高要因として一番よく聞かれるのが、この地政学リスクに対応した「安全資産としての」円買いだ。
国際的な軍事衝突について、従来は“有事のドル”としてドル高要因として考えられたが、直近のシリア空爆・北朝鮮関連の地政学リスクについては、為替相場はほぼ一方的な円高で反応している。
安全資産への通貨退避については、後程また触れることとしたい。

投機的資金の動向

FX取引などで、売りポジション(ショート)や買いポジション(ロングは、多くは為替差益を得るために保有されているが、大口投資家の保有残高は一方向に傾きやすく、最近までは2016年11月以来の円売りポジションの残高が相対的に大きく、このポジション解消取引による円高傾向があるとされている。(低金利の円は、売りポジション保有でスワップ金利を支払っている)

D) 実需の為替取引
為替のトレンドを変える動きにはなりにくいが、輸入企業・輸出企業それぞれが決済用に外貨の売買を行い、為替動向によっては先物オプションも利用し為替急変動の抑制要因となるケースが多い。

予測できない為替変動の原因

今後の展開が不透明で読み難い政治経済リスクとして懸念されているのは、フランス大統領選の結果(極右あるいは極左政権誕生によるEU混乱)、北朝鮮の核開発等の暴発・米国の軍事介入、中東情勢の悪化(シリア、IS、イラン等)などがある。

jp.reuters.com


米トランプ政権の政策も、実施内容(極端な保護貿易政策等)や実施不可能事態(減税法案否決など)発生も今後為替変動リスクとなる可能性がある。
現在の為替変動が将来のリスクをどの程度織り込んでいるかは不明だが、フランス大統領選との関連は選挙日程が近く、織り込み済みという見方が一般的である。

安全通貨円の不思議と為替相場変化の兆し

地政学リスクは、円高要因になる可能性が高いのが最近の趨勢だ。
標題に掲げた「自国に直結する地政学リスクや国政混乱で円高になる」ことについては、色々な解釈がされている。
多くの識者が、一部の地政学リスクと円高の関連について「円高に振れるのは理論的にはおかしいのだが、安全通貨として反射的に円が買われてしまう」という趣旨の発言をしている。

理屈のない自動的な円買い(安全通貨逃避行動)だという発言もある。
原因は色々考えられているが、反射的な反応説の一つが株式も含め最近の金融関係のディール(取引)にかかわるコンピューター取引割合の増加だ。

相場変動に対応するスピードを重視する電子取引の多くは、リスク発生と同時に一定方向への取引開始がプログラムされており、追随する動きを呼んでいるのかも知れない。
もしそうした取引が現在の一般的な動きであれば、今後さらに深読みした逆張りのプログラムや高度な人工知能(AI)による新手の取引が出てくる可能性もあるだろう。

他の見解としては、日本が対外純債権国(国債はほとんどが国内消化で、実質海外無借金国)であるため通貨安定性が非常に高く、安全度が東アジアの地政学リスクのマイナスを越えるからという見方だ。

国内資本も外国債券等の海外資産を多く保有しているが、地政学リスクの高まりに海外資産の引き上げで対応する、いわゆる日本版レパトリが発生しているとも言われる。
このため円買い勢の本命は、海外勢の円買いではない可能性も指摘されている。
こうした理由での円高であれば、どこまで進むかは特に北朝鮮にかかる地政学リスクが計り難く予測は難しい。

起こって欲しくはないが、東アジアにおいて米軍の戦闘行為が拡大した場合の「有事のドル買い」が「安全通貨の円買い」を上回ることもある筈だ。(過去にオイルショックの混乱等で、一時的な円安になったこともある)
こうした変化を初期には察知しがたいが、最近の常識である「リスクオフの円買い」が想定通りに進行しない場合には、変化の兆しである可能性も考えに入れた方が良いのかも知れない。

www.mag2.com

前例のない長期金利固定は、不自然な為替変動を生む?

円相場の変動理由ではないが、日銀政策による変動幅拡大についても触れたい。
外国為替市場は上記以外にも様々な要因で変動するが、通常は変動後自動的に変化する要因、例えば円が上昇する際には投機目的で円を保有した機関が利食いで円売りするなどの市場メカニズムによる反応に加え、金利水準も変化し、急激な変動を緩和する要因となるのが普通だ。(日本の場合は、円上昇により輸出企業の採算が悪化するので、長期金利を低めに誘導するのが一般的であり、金利が低ければ円売り要因にもなる)

ところが、現在日銀による金融緩和策の一環として前例のない長期債券金利固定政策がとられており、10年物国債0%の誘導目標が、ほぼ政策意図通りに固定されている。
このことは、自然な為替価格形成要素の阻害要因であり、円価格の変動速度や振れ幅を異常な水準にする可能性があるのだ。

前例のない金利固定が、経験則では読めない為替変動を生むおそれがあるという意見も最近よく聞く。
金利固定そのものが為替変動の要因ではないが、大規模な変動が起きた場合には一方向に動き出すと、その変動を加速し経験則を越えた大きな波動を生む要素となるわけだ。 
〔長期債券金利固定と為替の固定相場制を同一のものとしては考えられないが、為替相場が、長期的には経済ファンダメンタルを反映した妥当なレンジ内に収まるという自然な動きを阻害しているという点では似た部分がありそうだ〕 

今後の為替相場について

大きな相場変動の場合には、従来の常識的な変動範囲を越えた異常な為替レート(あるいは株価水準)になることがこれまで何度も起きている。

オプション取引の中には、通常想定しない極端な変動が起きた場合に巨額な利益を生む格安ポジションもあり、ヘッジファンド等にはこのオプション成立を狙って、通常のディールでは損を出しながら通常レンジを越えようと強引な大規模取引をする場合もある。
もちろん、相場の大きな流れや変化スピードを利用した取引であり実態は掴み難いが、少なくとも「想定を超える」相場変動が起きない保証はないことは確かだ。

最後に、円高は輸出企業の採算を厳しくさせ、株式相場下落・デフレ継続等と、マイナス面ばかり強調されるが、日本経済にとって長期的にはプラス面も大きいことは指摘しておきたい。
複雑な為替相場の動きには、これからも十分注意が必要なことは言うまでもないだろう。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。