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ゼネコンの底力はどこから生まれるか

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出典:toyokeizai.net

大手ゼネコンの業績は、リーマンショック後の建設不況を完全に克服し、急ピッチで回復している。
特にスーパーゼネコンと言われる5社の業績は、2016年に3社が過去最高益を更新し、今後も5社の高い利益水準を維持できそうだ。

旺盛な建設受注は続いているものの、人手不足が深刻化し完工時期の遅れ等から売り上げが伸び悩む建設業界の中で、大手ゼネコンの業績は堅調だ。
不況を乗り越え成長を続ける大手ゼネコンの秘密はどこにあるのだろうか?

ゼネコンとはどんな組織か

ゼネコンは、規模の大きな中小企業とも言われる。スーパーゼネコンでも事情は同じだ。
鹿島(1812)大林組(1802)大成建設(1801)清水建設(1803)、竹中工務店(非上場)のスーパーゼネコンの売り上げ規模は各社1兆円を越える。

www.syukatsu-buddha.com


建設工事の際には、ゼネコンを頂点として、下請け・孫請けシステムが建築案件ごとに組織されて業務を請け負う。
工事ごとにゼネコンの傘下で働く専門工事会社や職人(とび職・鉄筋・設備工等)が集められ、高度な専門性を持つ下請け各社が、現場で連携し統合される組織が一つの建物を造る。
下請け会社も含め全体が一つの会社であるかの様に有機的で柔軟な連携をとり、その関係がゼネコン成果物の信頼性と高い品質を維持してきた。

ゼネコンは建設工程の緊密で無駄のない連携をする為、建設材料や必要な建設機械等の手配、職人の無駄のない配置に責任を持ち、下請け・孫請け会社等をまるで各種楽器が集うオーケストラの様に緻密に組み立て、管理・進行させる。

大きな建設現場では、二次、三次下請けの参加する複層的な関係もあり、これらをすべて統合するコンダクターが「現場監督(工事監督)」である。
現場監督は建設現場の最高責任者で、事案によりかなり広い裁量権(工事契約の一部追加締結や変更権を持つ場合もある)と重い責任を担っている。
クライアントとの折衝を相手側の満足できるように進めながら、近隣対策や諸官庁との折衝そして並行する他の工事案件と相互調整して人員配置等に無駄の無いよう、緻密なスケジュール管理を行う高い能力が必要だ。

ゼネコンは、このような大きな権限と責任を持つ現場監督のもとに、社員と下請け会社等が有機的に絡み合う工事現場とサポートの管理部門が一体化した独立軍団の集合体だ。
そのためゼネコンの現場監督経験者には人間的にも魅力のある人材が多い。

heikinnenshu.jp

建設業界の人手不足

建設業界共通の大きな悩みである人手不足は深刻な状況だ。
25年前の1992年には80兆円を越える建設投資が行われていたが、バブル崩壊以降約20年で約半分にまで落ち込んだ。(ここ数年は上昇傾向)
約20年前のピーク時には全就業者数の1割以上である700万人近くの建設業就業者は3割減少し、500万人程度となっている。※全国建設業協会調べ

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事業規模の落ち込みを下回る就業者減の理由は、経験豊富なベテラン労働者の引退と新規採用を抑えて派遣または日雇い等で受注落ち込みを凌いだ企業の、数字よりも品質低下が大きいと言われている。

そして現在、震災復興に加え、オリンピック需要が建設受注の増加となり、一方でゼネコンの建設工事を支えるかなめである現場監督については、建設業にも及んだ「空白の20年間」が、30代~40代の現場監督予備軍の経験、教育不足を生み、次世代の現場監督不足が囁かれている。
戦場にも比較される建設現場のOJTで厳しく鍛え上げられ、たくましく成長した優秀な現場監督の不在はボディブローのように企業の体力を削いで行くと語る建設関係者もいる。

toyokeizai.net

ゼネコンの底力

大手ゼネコンも人手確保が厳しい環境下にあることは、中小建設会社と同様だ。
しかし、幾つかの違いもある。
派遣労働者法の改正などにより建設現場に他職種の派遣社員が入り、大手ゼネコンの社員が現場に出る機会が減少傾向にある。

官庁への許認可実務や資材調達、事務作業も多い高学歴の新卒者は、ある意味でゼネコンの本質的な部分かも知れない経験を奪われている。これは長期的な資質形成のマイナス要因だが、短期的には就職希望新卒者に忌避される現場業務を減らすことになり、志望者が伸びる要因だ。

従来以上に優秀な専門知見を持つ新卒者の採用が出来れば、今後の建設に比重が大きい「最先端技術開発」能力の充実をゼネコンにもたらすだろう。
ゼネコンの大きな強みには、資金力もある。
公共事業や民間の大型案件受注には完成保証を含む資金的な裏付けが必須で、豊富な施工実績をもつ大手ゼネコンの継続的な建設受注に資金力は大きな力となり、利益水準が高い受注が増える。
また資金に余裕を持つゼネコンの給与水準は上昇しており、上場スーパーゼネコン4社の平均年収は900万円程度に達し、新卒者の人気も上がっている。
そしてもう一つ、数字に表れないゼネコンの底力の源を指摘したい。

フラットな人事が生む後継者育成問題

現場監督だけではなく、建設現場での後継者育成は以前から重要な課題だ。
この問題は、成果主義・実績主義の流れの中で建設業だけではなく日本企業全体に吹き荒れており、硬直的なピラミッド型人事システムが一掃された企業も多い。

もちろんフラットな人事システムや成果主義に利点はあるのだが、建設会社のピラミッド型人事システムは、必然的に自然な後継者育成システムにもなっていた。
例えば高度なプラントシステムを担当する50代の建設設計者に一人も部下がいないケースも報告されている。

従来は二桁の部下を持つポストについていたベテラン社員が仕事を一人でこなすのだから、採算ラインは間違いなく向上する訳だ。
経験豊富な社員の技術経験が書類・データ以外に残らず、当該社員退職後の、同種プラントの建設受注時には、書類に残らないノウハウを引き継いだ技術者はいない。

現在の所、大手ゼネコンにはこうした経験者の後任には、類似業務に一定の経験をもつ人材を配置できる人的余裕があり、当面は技術継承の問題は少ない。
もちろん若手の経験が足りないということは、大手ゼネコンでもいずれ問題化することは間違いないが、現状はここ十数年の人事制度改革が経常収支にプラス影響を及ぼした状態と思われる。

もう一つの底力・現場監督が築く「絆」

大手ゼネコンの現場監督には、これも表面には出ない大きな力がある。
それが現場監督を頂点とする家族的な絆の強さだ。

大規模な建設工事の現場は、それだけで一つの企業に匹敵する広がりを持ち、現場監督は建設工事と言う戦場を差配する戦国武将とも言われる。
配下には直属の部下である社員達がおり、信頼関係を築いた下請け企業等と職歴の最後まで関係を保つ。

更に非公式に〇〇(姓)組と呼ばれる現場監督の混成チームは、クライアントである建築主(建物所有者・運営者)と、建物完成以降も良好な信頼関係を継続する。

一例をあげると、超高層ホテルを建設した大手ゼネコン現場監督(仮称A氏)は、完成したホテルで、当該ホテル工事関係者の同窓会を百人規模で毎年開催し、後輩も必ずそのホテルでの披露宴等利用を優先している。
A氏は、後輩のためには、海外在勤中でもゼロ泊2日の強行日程で、結婚式に出席し、式終了直後に家族にも会わずに十時間を越えるフライトで現場にトンボ帰りする。
「A組」(+施工建物発注者)との密接な絆は、A氏が役員となり現場から完全に離れても続き、他方、A氏の後輩が優秀な現場監督を経て、同様な絆の連鎖を形成している。
このある意味で家族を越える絆が生むのは、後継者への経験不足を補う人間関係の醸成だ。A組の構成員は、様々なシーンで、このネットワークを介して、自らの業務に活用している。
こうした絆は大震災などの災害時にも機能する。


例えば最近起きた河川氾濫による大規模な堤防崩落と広域浸水事案では、週末の事故発生にも関わらず事故地点への補修資材の手配を堤防仮復旧日程が決まる前に完了し、多方面の事故発生による復旧資材調達難の状況でも速やかに補修完了できたのは、こうした人脈・人的ネットワークの組織力をフル活用したゼネコン(現場監督)にしかできない効率的な資材管理・物資輸送能力だった。

ゼネコンの未来

これからもしばらくの間、このようなゼネコンの底力が示されるシーンは続くだろう。
だが人手不足は日本全体の問題であり、働き方改革と進行中の人事システム改革は建設業にはとりわけ大きな影響が出るだろう。

ゼネコンもその例外ではない。おそらくオリンピック需要が一段落する頃から、需要不足と人材不足が重なった次の不況が影を落とし始めるだろう。
しかし、スーパーゼネコンには大きな夢もある。
大成建設が提唱する都市型ZEB®(ゼロ・エネルギー・ビル)は、環境問題に関心の高い日本で、今後高付加価値が期待される次世代技術だ。

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www.taisei.co.jp


また、宇宙に目を向けるゼネコンもある。
清水建設は、今世紀初めから宇宙発電や月面基地建設構想を発表し、宇宙ホテル構想は実現が見えてきた商用宇宙旅行の先にあるものとして実現に向けた具体化が進んでいる。

大林組が発表している「宇宙エレベーター」建設構想は、2050年に静止軌道上の先までカーボンナノファイバーのケーブルを伸ばし、地表から36000キロ上空の軌道駅へ、ケーブルカーで往復できるものだ。
NASA(米航空宇宙局)もこの計画の一部について実証実験を行っており、実現した場合、人類と宇宙の関係を変える可能性を持つ夢の建設計画だ。

www.obayashi.co.jp


重い課題と素晴らしい夢も持つゼネコンだが、日本人口の約一割を占めると言われる建設業全体の発展は日本経済にも大きな意味を持つ。
これからのゼネコンには、その底力で厳しい明日を克服し、次世代へつながる飛躍の未来を期待したい。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。