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モディノミクスは成功するか?経済大国インドの光と影(その2)

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出典:capitalfm.co.ke

GDP7%成長、株価上昇基調のインド経済。若年人口が多く、将来的な人口世界一が確実視されているインド経済の可能性はさらに大きい。

自ら「安倍首相の経済政策を尊敬する」と述べ、次々に繰り出される経済施策が “モディノミクス” と呼ばれることを歓迎するというモディ首相の新経済戦略の将来性と、アジア・世界そして日本に関連する今後の展開を予想する。

インドの多様性

モディ政権の経済戦略の背景である、インドの多様性(ダイバーシティ)について最初に指摘しておきたい。今、様々な分野で多様性の重要性が指摘されているが、インドはある意味世界一の多様性豊かな国かも知れない。

高山地帯から砂漠も包含しつつ南部モンスーン地帯まで続く広大な国土の多様性と文明勃興期からの複雑な歴史、多民族、多言語、多宗教が混在する文化の多様性を持つインドには、この独特の風土が育んだ寛容の精神がある。
公用語はヒンディー語だが、実質的な共通語である英語以外にも、連邦憲法で準公用語に22の言語を定めている。さらに民族や地方特有の文化・言語にも寛容で、方言まで入れると2000近い言葉が日常的に話されているという。

また厳密なカースト制はインドの闇の部分ではあるのだが、カーストの職業縛りが世界屈指のIT先進国を生む要因になったように、複雑なカースト制の制約と矛盾が国民の活力を生んでいる一面もある。
このインド特有の多様性が、後述する経済発展にプラスとマイナス両面で大きな関連を持つ。

インド経済成長の鍵を握るモディ首相の外交手腕

中国を上回るGDP成長率を続けるインド経済は、これからの世界経済にとっても無視できない要素だ。
長い間インド政治の主流だった国民会議派の経済学者シン首相に代わって、人民党(BJP、ヒンドゥー教至上主義政党)の擁立で登場したモディ首相だが、経済発展を重視する姿勢は前政権以上だ。

2014年に第18代インド首相に就任したナレンドラ・ダモダルダス・モディは、グジャラート州(インド国内石化製品の約70%、医薬の約40%を生産する工業県)の首相を経験し、経済政策で成功を収めた。
州首相時代から日本との関係は良好で、第一次安倍政権時代に訪日し安部首相と親交を持っている。

インドは日本と似た二院制だが、3年ごとに半数改選となる上院は州の代表的な性格を持ち、現在の第一党は野党の国民会議派で、与党人民党は法案成立に連立が必要だ。
〔なお、与党は直近の地方選で圧勝し、上院支配が視野に入った。政権基盤が強まり、モディノミクス加速に寄与すると言われている〕

こうした状況下で、モディの経済政策は次第にその性格を鮮明にしている。
モディノミクスは、2016年の急激な原油安を神風としたインド経済の急回復を背景として好調を維持している。
これまでのモディ政権の経済改革は、国会ねじれの中で成立した間接税(GST税)の改正や富裕層や汚職管理を狙い撃ちにした高額紙幣廃止政策は、国民の支持を得ている。
このためモディ首相の経済改革は、次のステップに向け加速しそうだ。

president.jp

日本とインドの良好な関係と中国

2015年、モディ政権は米印海上共同演習へ日本の海上自衛隊の参加を招待した。
(2016年6月に「マラバール・2016年作戦」として実施された)

インドは中国への過度な刺激を警戒して、それまでは自衛隊の軍事訓練参加を拒んでいた。だが、モディは中国に対抗する意思も込め、日本の参加を認めたようだ。

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出典:jp.reuters.com


日印首脳は(中略)安全保障面では両国の外務・防衛閣僚協議の設置検討で合意し、海上交通路の安全確保に向けた海上自衛隊とインド海軍の共同訓練の定期化でも一致した。
経済分野では日印投資促進パートナーシップを立ち上げ、対印の直接投資額と日本企業数を5年間で倍増させる目標を決定。共同声明には両国関係について「特別」との表現を盛り込み連携強化を印象づけた。(産経ニュース2014.9.2)

www.sankei.com


基本的には現在のインド外交も、伝統的な非同盟外交が基本方針である。
ロシア・プーチン政権とは良好な関係を持っており、一方で中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)には積極的に参加している。
だがモディ政権の軸足は、日ロの友好関係と米国との関係改善を踏まえ、次第に中国を除くアジア重視に傾きそうだ。

電力供給と工業製品輸出

これまではインドの輸出は農産物や鉱物資源、宝飾品等が主で、手工業を主とした工業製品等の輸出比率は低かった。(強いのはITサービス、ソフトウェア等)
基本的にインド経済は内需中心で、手厚い保護下にあった製薬・バイオ産業、鉄鋼業などは国際競争力を持つが、精製石油関連製品以外の工業生産品輸出は、以前からインドに進出していたスズキ(7269)の全面協力による東南アジア向けの自動車輸出以外にはほとんど実績がなく、全製品輸出の10%程度にとどまっているのが実情だ。

だが経済活性化から世界的国家への道を志向しているモディ政権は、工業の活性化を経済改革の柱とし、工業活性化に欠かせないインフラ投資姿勢は過去の施策を継承している。
インド中西部のマハーラーシュトラ州には、全工業生産の4分の1を占めている中心都市ムンバイがあり、その南には「インドのシリコンバレー」とも呼ばれるカルナータカ州都バンドカールのITセンタを持つ先端工業集積地帯であり、インド南部地域の潜在工業生産能力は大きい。

最近ムンバイ周辺では、輸出特化型企業、IT、バイオ関連企業への電力税の100%免除を受けられ、ジェトロ(日本貿易振興機構) は州への投資促進契約を結び、日本専用工業団地の整備等を発表している。
既にニプロ(8086)ブリジストン(5108)等いくつかの日本企業が進出済みで、今後も増加が見込まれている。
また住友商事(8053)が、ムンバイの特殊鋼メーカーの自動車鋼材製品の加工事業に約200億円投資する計画が最近明らかになった。
この他に貨物新幹線や高速道路計画が進展しており、日本の技術協力も期待されている。

今後の課題(工業用地等)

ムンバイ周辺に限らずインドの工業用地は、工業適地の多くは人口が多く、新規開発が困難で既存産業との摩擦もあって慢性的な土地不足となっている。
またムンバイ港の港湾施設は既に満杯に近く(現状で能力の90%稼働)更に最大の問題として新たな工業生産施設への電力供給不足がある。

電力不足と原発建設計画

インドの電力不足は深刻で、インド経済の発展に電力不足の解消は最大課題である。
原因の一つは、30~35%と言われる送配電ロスの多さで、これに対しては変電所の設置による高圧化等の送電効率向上計画が進められている。
電力不足解決策の一方の柱が原子力発電の推進だ。

現在、シン前政権時代にスタートした6万メガワット規模のジャイタプール原発計画が進行中で、インド政府は2050年には2014年の100倍、470ギガワットを原子力で生み出す方針を明らかにしている。
ジャイタプール原発建設には、自然破壊や地震危険を訴える環境団体や地元漁業者等の反対運動もあり、日頃、対立の多いヒンドゥー教徒とイスラム教徒が足並みを揃え、非暴力の抗議活動を粘り強く続ける反対現場は如何にもインドらしい。

用地収用は終わり、民生用原子力協定を結んだフランスの原子力企業アレバ社は、1650メガワットの加圧水型原子炉(EPR型)建設を進め「この地を世界最大の原子力発電施設を造る」と積極的だ。
ジャイタプール原発は、経済中心都市のムンバイの近く(約400キロ)であり、発電施設稼働は大きな経済的な効果を期待されていた。(当初2017年内に建設開始、2018年稼働の予定)

だが地元漁民や環境団体等の激しい反対運動があり、更にアレバ社のコストアップ対応遅れ等の事情などで完成時期は遅れる見込みだ。
インドでは、この他モディ首相とオバマ前大統領が推進したムーアサイドの原発3基建設について、米WH(ウェスティングハウス)社と契約交渉を行っていた。
この建設計画についてもWHの連邦法破産申請以降の展開が不透明で、情勢は混沌としている。

インドはウラン産出がほぼゼロのため、これまで濃縮ウラン不要で埋蔵量が豊富なトリウム燃料型の国産技術による加圧水型重水炉(PHWR型)を大半の原発で採用していた。
トリウム型原子炉には、燃料対比発電効率等の利点と大型原子炉作成が難しい短所のほか、安全性や廃炉経費などに賛否両論がある。

その他の経済不安要素

インド経済の回復を支えた原油安の反転高相場が懸念されていたが、原油高には米シェール生産増が見込まれ、現状では上限60ドルのボックス相場入りと見られ大きな不安要素とはなっていない。

トランプ政権の移民政策が、シリコンバレーに多いインドからのIT人材流入を止め、好調なITサービス輸出にも影響するのではという声もあったが、好調なナスダック市場の動向を見ると大きな懸念材料ではなさそうだ。
またトランプ政権に関連したドル高・ルピー安による資金流出懸念もあるが、これも最近の情勢をみると急激なドル高が抑制されそうである。
これらを考えると電力不足以外には、当面モディノミクスに大きな不安要素は見当たらない。

今後の展望

大きな可能性と問題点を持つインド経済だが、最近囁かれる一つのアイデアがある。
トランプ政権のTPP離脱で、米国抜きのTPP検討が選択肢の一つだと言われている。
従来モディ首相はTPPには不参加の意向を持っていた。中国との微妙な関係もあり、米国主導のTPP参加は難しいと考えていたのだ。
しかし米国の離脱により、インドを含むアジア太平洋圏TPPの可能性が示唆されている。

モディ首相のソフトな中国封じ込め政策とインド経済発展のためには「米国抜きのTPP」入りが絶好のチャンスとなるかも知れない。
もちろん、伝統的なインドの保護貿易、自国産業過保護政策とTPPの理念を融合させるのは難しい。
世界で初めて「ヨガ省」を造ったモディのヒンドゥイズムとTPPの要求する合理的で開かれた企業統治が折り合うのか等、多くの解決すべき問題があるだろう。
しかし暗礁に乗り上げたTPPの新たな可能性として大国インドを包含する広域自由貿易圏構想の推進は、モディノミクスの成否のみならず日本経済にとっても大きな可能性を持つのかも知れない。

参考書籍

『インド、大国化への道』 森尻純夫著、而立書房
『日本・インドの戦略包囲網で憤死する中国』 石平、ペマ・ギャルポ共著、徳間書店
『台頭する大国インド』 S・コーエン著、明石書房 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。