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米国対外防衛戦略の切り札「第3オフセット戦略」と日本の役割

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出典:tokyoexpress.info

少し耳慣れない「第3オフセット(相殺)戦略」という言葉だが、これからの米国の防衛力整備には、重要な意味を持った概念だ。
トランプ大統領が推し進めようという6兆円という多額な防衛予算拡大の背景にあるかも知れない、この次世代の防衛戦略の内容と求められる同盟国日本の役割を推理する。

第3オフセット戦略とは何か?

米国防総省は第二次正解大戦以降、二回の軍事・防衛戦略の転換を明らかにしている。
第一回は、1950年代の東西冷戦が厳しさを増す中で、当時のアイゼンハワー大統領の下で提唱されたニュールック戦略の別名が「第1オフセット(相殺)戦略」だ。

ワルシャワ条約機構(ソビエト連邦を中心とした東側軍事同盟)は、様々な理由で通常戦力については米国や第二次世界大戦で疲弊した西側(NATO)に対し、量的優位を保っていた。
第1オフセット戦略は、この量的優位を「相殺」するために大量の核兵器配備で、抑止力(報復能力)を誇示するものだった。

二回目の転換が「第2オフセット戦略」である。
1970年代に至って東西の核戦力が東側の大量配備により均衡し、通常戦力は引き続き東側が優位性を保っていた状況から生み出されたものだ。
ステルス技術や戦闘管理のネットワーク化等で、東側の軍事的優位を「相殺」しようとした。
〔こうした、戦略高度化に並行して、戦場シミレーションプログラム、イラク等の戦場を模した米国内戦闘訓練場建設等「戦闘被害軽減策」も取り組まれた〕

第1、第2の戦略はいずれも戦力規模や配備態勢等の競争ではなく、先端技術や作戦構想の革新で軍事的優位性を担保し続けるという観点から発想されたものだった。
「第3オフセット戦略」の場合には、紛争地帯(作戦地域)では米国の優位性が確立困難で、紛争地域の米軍戦力の接近阻止行動(外国勢力の忌避意識拡大傾向)という、複雑な国際状況を前提とした戦略環境が根底にある。

これらに対応するため軍事技術・作戦構想のイノベーション、兵器調達と兵站一体の全面改革を行い、戦略環境が厳しい場合でも他の勢力が保有しない先端軍事技術開発により相対的優位を保ち、戦略的に自由な軍事作戦(遠距離攻撃・極秘先制攻撃等)を可能にすることが第3オフセット戦略の目標だ。

wedge.ismedia.jp

第3オフセット戦略の具体策

現在提唱されている第3オフセット戦略の主な内容
  • 無人機器(攻撃機・潜水機)による作戦の展開
  • 海中戦闘能力、長距離攻撃能力
  • ステルス性兵器の飛躍的性能向上
  • 従来戦力と新技術を統合するエンジニアリング技法

これらを見ると、攻撃の隠密性を重視し、新技術を従来戦力に盛り込むことで、従来必須だった事前の軍需物資集積・軍隊の移動を極力減らす、または攻撃直前まで察知されない意図が読み取れる。
〔こうした戦略の背景には、「サイバー戦争」の影響もある。米国のイラン核施設情報探査やイスラエル空爆時のサイバー攻撃、ロシア・ウクライナのサイバー戦等、世界的に広がるサイバー攻撃と防護手段の高度化は、攻防両面で攻撃意図の秘匿と相手方の戦略意思読取りは軍事技術として非常に重要であり、具体的な公表は少ないが、多方面で研究され、開発費の割合も多くなっているものと見られる〕

第3オフセット戦略については未だ詳細の分からない点も多く存在するが、その推進が我が国の防衛産業に及ぼす影響はどうだろうか?

武器輸出3原則から防衛装備移転3原則へ

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出典:sorae.jp


一連の安保法制整備により軍事品等の輸出に関しては、従来の武器輸出3原則から弾道ミサイル防衛に関する日米共同開発の禁輸除外措置を経て、2014年に国家安全保障戦略に基づいた「防衛装備移転3原則」とその運用指針が策定された。(国の方針変更)

この防衛装備移転3原則中の第2原則では、平和貢献・国際協力と日本の安全保障関連の場合の条件付き移転(防衛装備移転)を定めている。
以前から、米国との防衛装備・技術協力関係として弾道ミサイル等の共同研究・開発は行っていたが、F35A戦闘機関連のノウハウを活用した米軍航空機の修理・改修や運用支援、オスプレイの導入・整備等が新たに始まっている。

防衛装備移転三原則 | 外務省

日本の防衛産業の今後と武器輸出

では米国の第3オフセット戦略に対し国内防衛産業は、どのように対応するのだろうか?
軍事関連の新技術・製品等については、従来から様々な形で法規制の下で日本も米国に協力してきたと思われるが、詳細については機密保護の観点からも明らかにされておらず残念ながら触れることは出来ない。
そこで第3オフセット戦略について、最も関心が高く情報も多いステルス技術関連事項を公表された資料等から分かる事象に絞って整理した。

高度ステルス性は、今後の新鋭戦闘機の最も重要な技術で、レーダー捕捉面積を最小化するなどで(理想的には可視範囲まで)探知範囲を短くする性能がとりわけ高い、第5世代戦闘機と呼ばれる戦闘機に採用される技術だ。
このステルス性能の向上には、レーダー対抗技術や機体形状(電波反射性)の開発が重要だが、日本が強みを持つ分野もある。

充分な機体強度・耐熱性でありながら、電波吸収能力が高い機体表面用素材作成技術は、日本が特に強みを有するカーボンナノチューブ等の原材料や整形加工技術だ。
2028年に就役予定の次期主力戦闘機とされる日本のF3についてさえ、ステルス性能の具体的な仕様は機密であり、米国の軍事技術関連の最新情報は全く知り得ないが、ステルス技術の重要な側面である機体素材に日本の寄与がある可能性は高いと思われる。
※参考:一般的な航空機部品では、米ボーイング社等が採用する軽量・高強度の炭素繊維(カーボンファイバー)の東レ(3402)や、人工衛星にも採用され世界的にも高いシェアを持つカスケードなどの航空・宇宙部品製造の日機装(6376)などは注目企業である。

第3オフセット戦略の今後

こうした新技術開発がどこまで従来戦力を「オフセット(相殺)」する能力があるのか、米国及び一部技術を共同開発する同盟国が、技術優位を長期間維持できるのかは分からない。

米軍の高い秘匿制を持つ軍事技術が、そもそも戦争抑止力として機能するのかなど疑問点は多いが、東日本大震災でも明らかになったように世界の部品工場(特に高機能部品・製品分野)としての日本の役割は他国に代替企業がない場合もあり、米国の軍事産業においても研究開発も含め、今後も大きいのではないかと考えている。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。