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遺伝子組み換え技術(GM)作物表示は見直されるか?

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出典:nongmoproject.org/

EUでは義務付けされている食品油原料の遺伝子組み換え技術(GM)作物の使用表示は、現在の日本では表示義務がない。このためGM原料を使った加工油もGM表示の必要がない。
日本におけるGM表示のあり方、今後の食物表示の問題点と食の安全と農業、食物輸入、そして経済との関係や問題点など、今後の解決策を考察する。

GM表示とはどういうものか

遺伝子組み換え(GM)作物の表示制度は、2001年4月に施行されたもので、1996年に始まった遺伝子組み換え作物輸入に対応して出来た表示基準だ。
組み換えDNA技術で生産された農産物のうち8種類に輸入許可が与えられている。

法定の基準内容は、組み換えDNA技術(酵素等を用いた切断及び再結合の操作によって、DNAをつなぎ合わせた組み換えDNAを製作し、それを生細胞に移入し増殖させる技術)を用いて生産された農産物とされている。

遺伝子組み換えとは何か。GM作物の安全性は?

遺伝子組み換えの本来の意味は、DNAの中のタンパク質生成の機序(働く仕組み)が解明されている遺伝子をDNAの切り離した部分に組み込むものだ。
遺伝子組み換え作物は、有用なたんぱく質を作る遺伝子(収穫増や殺虫剤への耐性など)を植物などに組み込み、作物の生産性や品質を向上させる技術だ。

品種改良も広い意味では「遺伝子改変」には違いないのだが、交配による品種改良自体は有史以来人類が行ってきた時間のかかる非効率な品種改良で、大豆と大豆など同種か、猪×豚などの近縁種同士でしか行えず、危険な品種は自然淘汰され、広く長く流通する可能性はない。
これに対し、遺伝子組み換えでは作用が解明された遺伝子であれば、異種のDNAに組み込むことが可能だ。ただし組み込み遺伝子自体に問題がない場合でも、利用する遺伝子組み換え技術によっては、危険なたんぱく質などが付随的に生産される危険性がある。

遺伝子の切り離しは特定酵素などで出来るが、その特定の作用をつかさどる部分の遺伝子を組み込む技術や必要なタンパク質(例えば除草剤に強い)だけをピンポイントで組み込む技法が困難であり、アグロバクテリウムという細菌を使う方法が一般的だ。
この方法(他種の遺伝子組み込み)に、危険なたんぱく質等を作る可能性がある。
※種の異なる遺伝子組み込みは、必要な遺伝子を作成するため、まずたんぱく質生成機能をオフにして大腸菌などで大量生産し、その後、目的の生物への組み込み時に、「プロモーター」というたんぱく質を作り始める要素を組み込む方法が一般的で、このプロモーターが余分な働きをして目的のたんぱく質以外の有害物質を造ってしまう可能性がある。

そのため実験的に大量に栽培した遺伝子組み換え作物から、販売用の作物を生産するためには実験栽培した作物から目的に近い品種を選択し、検査通過した良い作物を更に通常交配で殖やして安全性も確認した後に、始めて市場に出る作物となる。
遺伝子組み換えに伴う危険性の除去が出来ているかどうかは、現在の技術では完全には判定できないため、ある程度の期間栽培実績を重ねてからその将来にわたる安全性を推測しているのが実情だ。

tocana.jp

遺伝子組み換え作物と日本のGM表示基準について

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出典:gmo.luna-organic.org


遺伝子組み換え作物の実用化後18年経過した2015年には、世界全体での遺伝子組み換え作物栽培面積は1億8千万ha(ISAAA調)に達し、特にアメリカでの遺伝子組み換え作物がかなり広がっている(世界全体の約4割)。
日本国内にも、作物としての輸入実績はほとんどないが、主にアメリカから食料油等の原料としてトウモロコシなど約12,000トンが輸入されている。
(2011年の農水省資料より) 

日本のGM作物の表示制度は、加工用の原料や家畜飼料等としてのGM作物には表示義務がない。(飼育牛豚等の餌は大半が遺伝子組み換え作物)
日本の表示制度では指定した8作物の33品目の加工食品を対象とし、一定の重量比を越えた場合のみ表示義務が課せられてる。
一定の比率までは表示義務が無いのは、輸入過程の積み替えなどである程度の混入があるからとされている。
また、加工用原料に表示義務が無いのは、組み換えDNA自体と遺伝子組み換えDNAにより生じたたんぱく質は、加工食品の製造工程で除去又は分解等され、 食品中に残存しないからだとされている。
EUなどでは、混入比率を0.9%以下(日本は5%以下)と厳しくしており、食用油や飼育家畜の餌に使用した場合にも、表示義務がある。

日本のGM表示基準厳格化の影響と可能性

日本においては、大豆など遺伝子組み換え作物が生産されている品種には「遺伝子組み換えでない」表示が一般的だ。
米国やEU以上に遺伝子組み換えアレルギーが多い現状を考えると、将来EU並み程度にはGM表示基準を厳格化した新制度が施行される可能性は高い。

加工食品に使用した場合には、一般に流通している遺伝子組み換え作物に残るわずかな危険性さえ加工後に残る可能性はゼロに近いと思われるのだが、そもそも日本では遺伝子組み換え作物にかかわる全てに拒否反応が強いからだ。
もし、そのような表示制度改正が行われた場合、国内メーカーは「遺伝子組み換えではない」対応製品を食肉や食用油等の加工食品にまで広げるだろう。
その結果、関連する食品等の価格は急激で大幅な値上がりすることとなる可能性が強い。
※但し、アメリカなどでは既に対応する「遺伝子組み換えではない」輸入作物の生産数量が足りないと思われ、なし崩し的に現状通りの食品が流通する可能性もある。

さらに、もしこうした輸入作物構成の大幅な変更が行われると、おそらくGM表示改正結果の最大標的となる米国との食料貿易摩擦が起こる可能性が高い。
米国では、複数の政府機関による厳重な検査の結果、安全とされた遺伝子組み換え作物のみを許可しているので日本特有の事情は理解されないだろう。
GM表示改正の問題は、改正後の影響範囲が測りがたい難しい問題だ。

GM作物とゲノム編集技術

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出典:gigazine.net


こうした問題を劇的に改善できそうな技術が、ノーベル生物学賞候補筆頭の「ゲノム編集技術」だ。
ゲノム編集技術は2012年に論文が発表されてから、前例のない短期間で研究と利用が広がっているノーベル賞受賞が確実と噂される新技術だ。
これは特定のたんぱく質等を並べて、遺伝子中の目標部位を切り取る等の技術で、従来に比べて格段に繊細で危険性の少ない技法だ。

gigazine.net


まだ誕生から間のない研究中の技術であり、遺伝子組み換え作物への応用は始まったばかりだが、原理的に危険性が少ないと思われるこの方法での組み換え作物の安全性が確立されれば、将来的にはGM表示の問題、食料輸入・貿易摩擦の問題も自然に解決する可能性も期待できる。
人類の長い歴史の中で、動植物の選択交配を続けて有用な食料を生産してきた農業だが、未来には、過去の品種改良と同様か、それ以上に安全で確立された遺伝子組み換え食料が農業を根本から変化させ、人口爆発と食糧危機への切り札となるのかも知れない。

<参考>遺伝子組み換え食物の安全性とゲノム編集について

1.遺伝子組み換え食物の安全性について

遺伝子(DNA)がたんぱく質を作る仕組み(転写と翻訳)はどのタンパク質でも同じだ。3文字であらわされる塩基の種類は64種類あるが、アミノ酸が出来る組み合わせは20種類に過ぎない。

例えばアデニンが3つ並ぶAAAというDNAコドンは必ずアミノ酸のフェニルアラミンを生成し、シトシン、チミン、チミン(CTT)からはグルタミンが出来る。
このため、異なる種類の氷点下で凍らない遺伝子を他の種(例えば魚からトマトへ)に組み込んでもその遺伝子が働いて作るたんぱく質は全く同じものなので、遺伝子組み換えが成立する。
但し、生物が進化の過程で作り上げた複雑な体は、部位により遺伝子の働き方が違う場合があり、複数のたんぱく質の組み合わせによって作り出される器官等もあることから、正確に必要な部位に遺伝子を組み込めても、必ず同じ様に働く保証はない。しかし、このことがただちに異なる種の遺伝子組み換えが危険だということを意味するわけではなく、理論的には同種の選択交配でも、交配後の遺伝子は変化するので(確率は低いが)危険要素の生成は起こり得る。

米国で、新たに遺伝子組み換え作物生産する現場では、栽培した遺伝子組み換え作物を市場に出すまでに、かなり多くの試験を繰り返し、安全性を確認したものだけを売り出して(生産し)ている。すこし短絡的な言い方のようだが、確率的に「市場で売り出されている遺伝子組み換え作物は100%安全ではない。しかし交配で作られた新種作物よりは安全性が高い」ということが言える。(『食卓のメンデル』ニーナフェドロフ他著 参照)

何故ならば、アメリカの遺伝子組み換え(分子的手法)作物は、独立した二つの政府機関により潜在的な危険のある生成物(殺虫剤や農薬同様の危険性を持ったもの)という前提で厳しく審査される。
一方、自然栽培の作物にも太古よりトランスポゾン(移動する遺伝子)による遺伝子組み換えは発生しており、加えて突然変異による毒性を持つ可能性もあり、交配により特定の特性を持つように選択された種類には、特に特定の変化が蓄積する可能性もある。
遺伝子組み換え作物は、人類にとって馴染みのない概念で誕生以来日が浅、危険性について過剰反応が起きやすい。また、一部の学者にはこれを助長するために科学的根拠の少ない実験により、遺伝子組み換え作物の有用性から危険性に誘導する傾向があるような感じを受ける。少なくとも、大学レベルの分子生物学を履修していれば、遺伝子組み換えにより、異常なたんぱく質が生成される確率がどのくらい少ないかは、誰でも計算できるはずだからだ。
〔もちろん、遺伝子組み換え作物に危険性が無いとは言えない。そのために十分以上の検査は必要であり、それ事前に実験環境から漏出させてはならないことは当然である〕

2.ゲノム編集による遺伝子組み換え食物の可能性について

ゲノム編集とは、遺伝子の部位を特定してDNA二重鎖を切断する酵素(ヌレアーゼ)を利用し、ゲノム上の狙った遺伝子配列を切断(改変)する技術だ。
DNAの4塩基(アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C))は、それぞれ特定のタンパク質などと結合する性質を利用し、目的遺伝子に結合するように並べ、そこに遺伝子切断酵素をあわせると、数万の遺伝子の中から特定の組み合わせを見つけ、希望する位置での切断等が出来る仕組みだ。

このDNA二重鎖の切断は、細胞にとって有害な事なので(放射線等で遺伝子が壊れた場合と同じ)、細胞は速やかに修復しようとする。その場合、修復過程でエラーが発生することにより突然変異が起きる可能性が高い。しかし、この際に接合可能なドナーDNA断片を付加すれば、遺伝子配列を期待通りに置換、あるいは新たんぱく質が生成できる。

ゲノム編集は、画期的な技術として現在も研究が進んでいる。この技術が成熟すれば、これまでの遺伝子組み換え作物に比べ、安全性と有用性の高い組み換え作物の生産が期待できる。但しゲノム編集でも、似たような配列部分に誤って作用することもあり、まだ完全な技術として完成されたわけではないが従来の遺伝子組み換え作物に比べるとかなり洗練された技術であるので危険性の少ない組み換え作物の生産が期待されている。
既に中国ではヒトの受精卵にこのゲノム編集技術を利用し、遺伝病等の有害部位を取り除く試みが発表されており、ヒトへの応用は倫理的に問題があるのではないかという議論が起こっている。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。