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Money Clip

お金に関するニュースをクリップ!

トランプ政権とゴールドマンサックス

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出典:thepage.jp

トランプ政権を支える閣僚達の3Gと言われる出身母体の一つが、ゴールドマンサックス社だ。他の2Gは富豪と将軍という一般名詞でくくられた集団であるが、固有名詞であるゴールドマンサックス社(以下「GS」と略記)出身の集団は均質性という点で少し違う意味を持っている。

トランプ大統領が何故GSからの人材を多用するのか。そして、その影響は今後次々に打ち出されると期待される経済政策にどのように反映されるのか?
GSという組織の特色や社員の特徴等とあわせて今後のトランプ政権の経済政策を予想してみたい。

ゴールドマンサックスはどんな会社か

沿革

GS社は1869年創業(ゴールドマンが義息サム・サックスとゴールドマン&サックスを設立したのは1882年)だが、現在のような世界最大級の金融機関として成立したのは、1907年に16歳で入社したシドニー・ワインバーグの力だ。

ワインバーグは数人のパートナーによる共同経営のスタイルを確立し、大恐慌を乗り切った後、フォードのIPOなどで力をつけ約40年間GSの会長職を務めた。
この「共同パートナー制」はその後もGSの伝統的経営方式となり(時に、権限がトップ集中でないという欠点も出る)GSの経営基盤となっている。
〔強烈なリーダシップを発揮しながら、個人帰属の成果を嫌ったワインバーグには新入社員が「私は〇〇をしました」と言うと「主語が違う!我々は・・だろう」とたしなめた、という逸話が残っている。〕

人員採用

GSは、新卒予定者のインターン選抜から、オープンミーティングなどの厳しい過程を経て入社選考された優秀な人材を採用し、中間管理職で25万ドルという高給を得ている。
2007年頃には全社で3万人を超えると言われていた社員の平均ボーナス支給額は7300万円だったと言われている。
※最近の年収は750万円(新卒)~1億円(アナリスト等)

そのため、退職率も業界平均20%(年間)に対し、5%という低い水準だという。
更に幹部になるのは飛び切り優秀で超高給の人材で、GS出身者から上院議員、連邦準備銀行総裁や後述する財務長官などを輩出している。
その採用試験では、トップの一人が900人の学生の最終面接(採用23名)をこなすという逸話もあり、優秀な人材確保には一貫して努力している企業だ。

また、中途採用者のヘッドハンティングでは、会社の利益の一定割合を得られるオプションや特別ボーナスなどの破格の条件を提示するため、厳しい選定条件で選び抜かれた優秀な多数の人材が中途入社する。

GSの業務

GSは、1970年代に低コストのブロックトレーディング(企業が保有する大量株式を一時期に売却するリスクが高く、収益率の高い取引)で「鷹は舞い降りた」という有名なセリフも生まれた大口クロス取引などで更に急成長した。その後、日本のバブル崩壊で莫大な収益を上げた「日経リンク債」の開発者もGSだ。

21世紀に入り、リーマンショックの危機を投資家バフェットの資本提供などで乗り切り、GSは現在も世界屈指の投資銀行として大きな存在感を持っている。
(この段落の記述には、『ゴールドマン・サックス王国の光と影』チャールズエリス著 及び『訣別 ゴールドマンサックス』グレッグスミス著 等を参照)

これまでのGS出身の財務長官

GS出身の財務長官としては、1990年からGSの共同会長だったロバート・ルービンが、1993年からクリントン政権時代に財務長官を経験し、1999年まで在任した。
ヘンリー・ポールソンは熱心な共和党員(ニクソン大統領時代の大統領補佐官)で、1999年から務めていた会長兼CEOから、2006年にブッシュ大統領時代の財務長官を経験し、リーマンショックを乗り切って、2009年に退任している。

このポールソンはCEO時代に、JPモルガンとの統合提案に対し、「統合後に大幅な人員整理(例えば日本の1500人)が必要だという点と規模の拡大が長期的利益率の上昇につながらない」という点などから、当初経営会議の多数意見だった合併賛成を覆し、合併しないという当時の金融業界の風潮とは異なる、いかにもGSらしい決断をした。
(『ゴールドマン・サックス王国の光と影』チャールズエリス著を参照)

トランプ政権のGS出身者

このようにGSの社員は高い能力を有しているという評価を得ており、米政権に参加すること自体は意外ではないが、トランプ大統領の選んだ閣僚人材等の多さと選ばれた人材には少し特色がある。

1.財務長官「スティーブン・ムニューチン」

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出典:jp.wsj.com


トランプ氏の選挙時には陣営の財務責任者だった新財務長官スティーブン・ムニューチンは、GSの元パートナー(経営幹部)だが、前述のGS出身財務長官二人と比べると、途中退社したこともありGSのトップクラスではない。
GS時代には、低評価の資産から巨額の利益をもたらす手腕に定評があったと言われている。

彼の父親もGSに勤務しており、前述のブロックトレーディングなどの強引な取引などにも名前があがっていたトレーダーだった。
スティーブン・ムニューチン自身、GS退社後に起こした事業で、複数の取引で訴訟沙汰を起こしながらも、辣腕をふるって巨富を得ている。

jp.wsj.com

 

2.NEC議長「ゲーリー・コーン」

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出典:jp.wsj.com


トランプの経済政策で、司令塔となる国家経済会議(NEC)議長のゲーリー・コーンは、GSの社長兼最高執行責任者(COO)で、同社のナンバー2だった。
彼の職務は議会承認が不要なため、ムニューチンに先立ってトランプ大統領就任と同時に就任し、アメリカ合衆国行政管理予算局長官にも就任している。

コーンはGSの次期トップと噂されていた。彼の経歴・能力は財務長官のムニューチンより上ではないかという声も聞かれており、トランプ大統領が彼に期待する経済政策立案には注目が必要だ。
現在、彼を中心として税制改革計画が検討中と噂されている。彼からは今までに予想されていない金融機関の積極投資を可能とする規制撤廃や新たな優遇策が出てくる可能性も否定できない。

jp.wsj.com

3.主席戦略官「スティーブン・バノン」

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出典:newsweekjapan.jp


さらに注目されるのが、スティーブン・バノンだ。トランプ政権の主席戦略官(上級顧問)に指名されている彼はGSの投資銀行部門で働いたことがある。その後、ニュースサイト(右翼系)に転じた。メディアには極右と呼ばれ、差別主義者の印象が強く、その強烈な言動からかなり警戒されている。

しかし、組合贔屓、リベラルな民主党支持者だったという過去の経歴もあり、必ずしも、極端な差別的主義者だとは断言できない感も受ける。
また、本人の「自分はレーニン主義者で、国家破壊が目標」だという小泉元首相のような突飛な言説には、GSらしい協同主義、既存秩序にとらわれない柔軟性が見受けられるような気がする。

これまで政権に関わったGS出身者にはGSの社風を受け継ぐリベラル系が多く、バノンのこれから出て来る性向が、コーン議長やムニューチン財務長官との間でどのように影響するのかは予測しがたい。
彼の強烈な個性がトランプ大統領の意図にうまく適合すれば、新たに予想を裏切る政策が打ち出され、政権の劇薬として良くも悪くも強烈な効果を発揮するかも知れない。

www.newsweekjapan.jp

4.上級顧問「ディナ・パウエル」

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出典:scoopnest.com


更に、トランプ大統領の補佐官(経済担当の上級顧問兼任)のディナ・ハビブ・パウエルもGSの出身者でやはり注目の人材だ。
ウキペディア日本版記載記事によると、エジプト系アメリカ人である彼女はインターンシップで上院議員(共和党)事務所を経験し、共和党全国委員会で議会担当部長および委員長上級顧問、その後大統領特別補佐官および次席部長、大統領補佐官(ブッシュ政権の人事担当)、国務次官補(教育・文化担当)を歴任し、最後は国務副次官(公共外交・広報担当)に指定されるというトランプ政権には珍しい政治経験豊富な人材だ。

2007年に国務省を退いて、GSのグローバル・コーポレイト・エンゲイジメント社長に就任し、GSの慈善担当の役割も担い、知名度が高い女性だった。

www.vogue.co.jp

トランプ政権では中小企業や女性の起業家支援などを担当し、アラビア語が堪能な彼女は、トランプ大統領の娘イバンカと親密な関係を持っており、上級顧問のクシュナー氏らと仕事をする予定だという。
ブルームバーグ報道では、パウエルが「起業家精神と中小企業の成長、世界経済における女性の地位向上をめぐる新たな取り組み」で政権を支えることになると言われている。

www.bloomberg.co.jp

GS出身者のトランプ政権での役割

上記の4名は政権内の主要な部署についているが、それぞれの多彩な経歴や報道されている人柄から見ると、政権内部をGS色に統一することにはならないような気もする。

そもそも、リーマンショック以降のGSの経営は「顧客の長期的利益を考えず、従来以上に強引になり、GSが本来持っていた顧客本位の姿勢がなくなり、信頼できない」というニューヨークタイムス紙の報道もある。
(『訣別 ゴールドマンサックス』グレッグ・スミス著 参照)

こうした声も併せて考えると政権のGS出身閣僚達がどこまで従来からのGS色を出していくのかは未知数だが、必ずしもGS出身者が、経済に対し同じ志向、性向を持っているわけではなさそうだ。
ただ間違いなく言えるのはGSがアメリカの大企業の中でも最高ランクの人材を集めていることだ。GSの幹部クラスの能力は、かなり高いため、トランプ大統領が人材不足の中で、そこに目を付けたという点もあるだろう。

GS出身者が打ち出すトランプ政権の経済政策

メキシコ国境への壁建設や入国制限の大統領令、オバマケアの廃止やTPP脱退などのトランプ大統領の早々に打ち出した政策に比べ、経済政策の発表遅れが目立つ。
予算措置を伴うので議会調整中であるとか、まもなく発表される予算教書を待って、具体策が打ち出されるという見方もある。

だが4人のGS出身者だけをとっても、異例で特色のある構成のトランプ政権人事だ。経済分野での具体的政策とりまとめに時間がかかるのは当然だろう。
ひょっとすると、これまでにない改革や新機軸を打ち出す新たな経済政策を、GS出身者達は立案中なのかもしれない。
大規模な規制緩和というトランプ大統領の発言も今のところ具体策は少ない。
〔GSの最近50年の歴史は、その善悪は別として、アメリカ証券取引委員会(SEC)等の「金融規制との戦い(規制逃れ)の歴史」だったという側面もある〕

今後、公共投資や減税以外でユニークな規制緩和策など、トランプ政権の評価を一変させるような素晴らしい経済政策が出るのを期待するのは考えすぎだろうか。
いずれにせよ今後数か月は、トランプ政権の経済政策展開は要注目だ。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。