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「テロと保険」不動産王トランプのリスク対応は?

保険 ニュース
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出典:nikkei.com

トランプ大統領令によるテロ対象国に対する入国禁止措置により、テロに対する戦いが具体的に始まったわけだが、米国内の混乱は深まるばかりだ。
入国制限に抗議するデモは全米で後を絶たないが、禁止措置が取り下げられる見込みはない。
世界に展開するトランプ大統領関連の不動産が抱えるテロリスクを、損害保険の観点から考察する。

保険契約におけるテロ損害の扱い

2001年9月11日に起きた同時多発テロでは、世界貿易センタービルなどの損害が保険加入額ベースで24,721百万ドル(約2兆8千億円)という巨大損害となった。
当時の損害保険契約の多くは、テロ損害を保険支払いの対象としていた。支払保険金は、再保険という仕組みで世界中の保険会社に分散され、日本の保険会社にもその負担が生じた。

中堅損害保険会社「大成火災」は、突然発生した巨額の再保険支払負担により債務超過に陥り、実質的に倒産(会社更生法適用)した。
その後、世界中の多くの保険会社は、こうした“テロ損害” を保険金支払対象外(免責)としたため、米国では連邦政府支援によるTRIAというテロ補償制度が開始した。
TRIAは制度開始後、幾つか制度改正が行われながら現在に至っている。

TRIAの内容

・テロ活動による被害補償
・人命、財産、インフラ等に危険を及ぼす行為であること
・米国内の損害および、米国外の飛行機・船舶等及び在外公館への損害
・米国又は米国民に対する、個人または複数の個人(他国ではない)による行為

トランプ大統領の資産

不動産王と称されるトランプ大統領の資産は、申告書の公表拒否のため正確な資産総額は不明だが、フォーブス社の2016年長者番付では約45億ドル(自称100億ドル)とみられており、多くは米国内の不動産だ。

海外にも「トランプタワー」などの展開をしており、10ケ国以上に不動産を所有している。(不動産資産合計は約4000億円と報道)

business.financialpost.com
トランプ大統領の海外資産リスト
所在国

Trump Towers Istanbul

トルコ

Palm International Hotel(ドバイ)

アラブ首長国連合

Trump World Golf Club (ドバイ)

アラブ首長国連合

Trump Plaza Tower

イスラエル

Trump Ocean Club International Hotel and Tower

パナマ

Trump Tower Baku

ロシア

Trump Tower Europe

ドイツ

Trump International Golf Links

イギリス

Trump Turnberry

イギリス

Trump International Golf Links and Hotel

アイルランド

Daewoo Trump World

インド

Trump Towers Pune

インド

Trump Tower Mumbai

インド

Daewoo Trump World

韓国(名義貸)

Trump Tower Manila

フィリピン(建築中)

Trump's Castle

フィリピン

参考:Trump TowerTrump National Doral Miami - Wikipedia

これらの資産は、名義貸しや株式等での一部所有もあり、総額は不明だが米国内の同様資産との比較で推計すると、少なくとも8億ドル(約1千億円)近い海外資産を保有しているようだ。(建築中、建築予定除く)

トランプ大統領の資産が持つリスク

では、こうした資産にはどんなリスクをかかえているのだろうか。
一般的に不動産は損害保険契約が付保されており、大半のリスクがヘッジされている。また、前述したように米国内資産については、TRIAによりテロ損害も補償される。(保険・補償制度は各企業の任意加入で、不動産業の平均加入率は75%程度)

ところが海外の不動産等は、TRIAの対象とはならず、一般保険とは別に契約が必要だ。TRIAは、巨大損害部分を米連邦政府が負担(1000億ドルまでの約85%、超過部分は補償なし)する仕組みなので、保険料が安いが(1億ドルに対し約30万円)海外資産の場合は数倍以上になる可能性がある。

未確認の噂に過ぎないが、トランプ氏のオーナー企業体約500社の総称 “トランプオーガナイゼーション” の海外資産の損害保険は複数の保険会社間競争で契約加入し、保険料抑制のためテロ損害は免責の契約らしいという話を聞いた。

海外資産がテロに遭遇した場合の損害

9.11テロの損害に続いて、2006年のスペイン・マドリード(被害額約84億円)、2008年のインド・ムンバイ(被害額約120億円)等の巨額なテロ事件が発生している。
2013年には、日本人10名を含む37名が犠牲になったアルジェリアのテロ事件が発生した。
これらの事件は、保険会社の補償対象となったケースがあり、前述のように各社が相互に再保険契約を締結しているのでテロごとの支払額推計は難しいが、既にかなりのテロ損害の保険金支払が発生している。

トランプ大統領の資産がテロの標的となった場合

前掲表の通り、トランプ大統領の保有資産及び名義貸し物件は、米国外にも多く存在している。
米国大統領周辺の警護は非常に厳重で、米国内のトランプタワー等のテロ対策もしっかり行われるだろう。
しかし、対外資産、特に中東のトルコやドバイの資産に米国内と同等レベルの安全性があるのだろうか?
無いことを望むが、万一こうした資産が悪質なテロの標的になると、直接にトランプ大統領または関連企業の保有資産に損害が及ぶ。加入保険が「テロ補償」のない保険であれば、巨大な損害がトランプ大統領の資産を減少させる。

その後、テロ被害発生により、トランプ氏に関連する他の資産価値(危険度上昇もあり)も大きく減少するだろう。これは、トランプ氏の支配下にない名義貸し不動産にも波及し、トランプブランドの価値も毀損する。
最悪のシナリオは、トランプ大統領が個人資産への直接被害に逆上して、過激で見境の無いテロ報復政策を行い、そのことが新たなテロを生むことだ。限定的なテロから際限のないテロ被害へと続く負の連鎖が心配される。

世界経済にとっても重要な、テロによる保険料の見直し等

テロによる保険料水準の高騰は、必然的に一般的な不動産保険料から、やがてその他の保険にも波及し保険コストの全般的な上昇となる可能性がある。
さらには、危険地域の保険引き受け市場の縮小や引き受け制限などは、ボディーブローのように世界経済の減速要素となりうる。

テロ被害は、風評被害を伴い、直接被害以外に保険料値上げだけでなく、貿易の縮小・人の移動の制限・自粛等多くの負の遺産を生む。そんな予想外のリスクを避けるため、世界中に資産をもつ大富豪にこそ保険カバーが重要だ。


不謹慎な話のようだが、これまでに数回破産したというトランプ大統領だ。
万一の自社ビルへのテロ損害に対し、「保険金が出たから問題なし。お陰で、古いビルを建て替えられるぞ。テロリストに感謝だ・・」ぐらいのブラックジョークで、トランプ大統領がさらりと交してくれるなら、心理的にも安心感を生み、世界に対し大きな影響を避けられるかもしれない。

余談になるが、アメリカの大統領の名前を冠した不動産が世界中に点在すること自体が大きなリスクだ。大統領関連の海外資産の整理(売却)が最善のリスク回避策かも知れない。

トランプ大統領の抱えるリスクは世界のリスク

テロと保険に関連して、トランプ大統領の保有不動産が抱えるリスクについて考えてきたが、本稿は、必要以上にテロの脅威・不安を強調する意図はない。
アメリカの巨大テロ事件が日本の損害保険会社を破産させたように、現在の世界経済は、様々な要因が相互に関連をしながら複雑に作用しあっている。
万一の災害等への備えは、発生リスクを最小限にできるような保険等の対応が重要だろう。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。