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Money Clip

お金に関するニュースをクリップ!

「3年後GDP600兆円」の目標をどう考えるか

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出典:co-media.jp

アベノミクスの成長戦略、新『三本の矢』は、2020年迄に名目GDPを600兆円にするという目標を掲げ、昨今の厳しい経済情勢下で、その実現可能性や達成への戦略などに議論が集中している。

だがGDPの数字が独り歩きしてはならない、GDP増加がこれからの日本経済にどんな意味があるかはGDPの内容次第ではないかと考えている。
発表された新『3本の矢』の3項目中にある言葉「希望を生み出す」「夢を紡ぐ」「安心につながる」を念頭に置きながら、日本のGDP成長がもつ意味、目指すべき目標について探る。

そもそもGDP増加とはどういうことなのか

経済成長は、名目GDPの伸びだけが絶対的な指標ではない。
一般にGDPは労働力(人口)、生産施設等の資本蓄積 、技術進歩の3点が増加の主な要因だが、極端なことを言えば、財政赤字に上限がなければ財政出動により名目GDPは一時的に急増する。
勿論、財政破綻の懸念がありGDP成長の着地点や将来戦略が大きな課題だ。
だが、そもそもなぜ成長戦略は名目GDPの増加を大きな柱としているのだろう?

新『三本の矢』は、旧『三本の矢』に比べ、より具体化した“600兆円”  “少子化対策”  “社会保障” に焦点があてられている。
旧『三本の矢』はどこに行った?という揶揄の声さえあるが、筆者は日本経済の成長に向けたアベノミクスの方向性に大きな変更はないと考える。
ただ数値目標に加え、新『3本の矢』に加わった「希望」「夢」「安心」の語句によりGDPの質向上に言及した。
切りのいい数値目標だけが成長戦略ではないという、この表現が新しいのではないか。

www.co-media.jp

政府方針が示す経済発展の「好循環」

GDPの質向上に関連する、経済の「好循環実現」について少しふれておきたい。
中国やインドなど巨大人口の国がGDP大国として喧伝された反面、人口減はGDP減少要因となるので、日本は少子化対策が必要と理解されがちだ。
これは間違いではないが、本質的な部分ではない。

政府広報等で触れているのは、企業収益拡大が賃金上昇、雇用拡大につながり消費の拡大や投資の増加を通じて、更なる企業収益の拡大に結び付く仕組みの、経済の好循環が重要と位置づけ、内需(個人消費)回復が重要だとの主張だ。

www5.cao.go.jp

成長戦略の加速化は「政・労・使」連携による好循環実現だと述べるとともに次の二点を戦略目標に据えた。

(1) 競争力強化に資する設備投資等の促進
(2) 科学技術イノベーション、技術開発の推進

新基準で急増したGDP

昨年、日銀が発表した研究開発投資を重視した国連の新基準による数値を内閣府も採用し、名目GDPは一気に三十兆円以上の増加となった。
(それでも現時点では、名目GDP600兆円達成はまだ厳しい。)

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出典:keidanren.or.jp

GDPの算定方法や、望ましいGDPのあり方についても各種の議論が輩出している。
算定方法の変更で激変するような名目GDPを目標に据え続ける意味は、もはやあまり無いのかも知れない。

GDP増加策には日本の得意技「質の向上」が重要

政府は少子化対策や介護離職防止等の人的要因増加(減少抑止)施策のみで経済成長を達成しようとしているわけではない。
GDP成長には、人口増加以外の要因が大きい。
GDP増加要因はいくつかあるが、主要なものは下記の四つだ。

① TFP(全要素生産性=技術進歩の進捗)
② 労働時間
③ 労働構成(質)
④ 資本の寄与

技術革新等の質の向上が、日本経済の成長の柱であったのは間違いない。今後も、人口構成推移や日本の資源等から考えると、TFPの向上と労働構成の質向上が経済成長のために優先されるべき要因だ。

政府の公表方針にもその意図が感じられる。
労働構成の質とは、簡単に言えば学歴や勤続年等による賃金差を「質」の指標とみて、統計的に処理したもので、日本は一貫して安定的に向上しているとみられている。

TFPは遅れている?

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出典:tonari-it.com

日本ではTFPの向上はどうだろうか。
政府見解においては、日本のTFPは欧米に比べ低い水準にあり、増加率も平均以下となっている。妥当な見方だろう。
このため、政府の成長戦略(GDP増加)の重要施策に「科学技術イノベーション、技術開発の推進」があげられているのだろう。

日本は一人当たりでは富裕な国?

日本経済の成長率が、欧米諸国に比べて低い水準なのは問題だ。
だが、別の見方もある。
国連は詳細なGDP算出マニュアルを作成しているが、同じ国連機関が発表している『総合的な富裕度の報告2012年』には、「一人当たりの総合的な豊かさ」は日本が世界一だとされている。(2014年はアイスランドに次いで2位)

現状で、既に日本は世界トップクラスの豊かな国に達しているという見解だ。
この報告以外にも経済の豊かさについては色々な視点がある。
ここで個別に論じる余裕はないのだが、例えば「スティグリッツ報告」(既存GDP統計と異なる統計方法が本来のGDP算定方法だと唱え、教育水準や社会資本整備、安全な社会等の要素が、経済規模の算定に必要という2009年の報告)の「GDP算定方法見直し」提唱や、近年の高度情報社会の経済活動は計測不能部分が残っており、現行のGDP算定方法では技術革新の大きな要素を十分には把握出来ないという主張も多い。

ネット時代の経済活動と「ソローの残差」

ソローの残差という言葉をご存じだろうか。生産能力向上に寄与する、技術革新が、直接計測できない為、技術革新以外の増分を全体から差し引いた残りを言い、当初はその存在すら否定的だったが、現在は「潜在GDPの算入」などと呼ばれ、色々な方法で計算されている。

d.hatena.ne.jp

詳論は避けるが、身の回りに急増しているネット通販やオークションの全体像把握。音楽や動画コンテンツの利用やビットコインなど、今後急増が予想される分野については、現行の計算方法では把握困難というのが筆者の見解だ。

この最先端部分の「技術革新」スピード(増加)では、日本も世界水準を維持しているのではないだろうか。
これらを勘案すると、従来手法によるGDP算定が、現実からかい離しつつあるという専門家が増えつつあるのは時代の趨勢かも知れない。

これからの日本に求められるGDP増加要因

GDP統計には様々な問題があるが、日本経済を安定的に健全なレベルに保つために、労働の質向上と平均以上の技術革新が必要であることは確かだ。

冒頭にふれた三項目、新三本の矢にある、夢、希望、安心・安全は、労働の質改善や技術革新の遂行過程においても、量的拡大を図りながら、日本独自の「量よりも質」という観点を保ち、あるべき目標に進めようという、日本人らしいまとめではないだろうか。
遅ればせながら、最近、保育士待遇・保育所問題の改善やプレミアムフライデー・残業減など労働時間・賃金に目が向きつつあるのも、こうした流れの一つのような気がする。

これからの日本経済は、「一人当たり富裕度」の世界一を目指し続けていれば必ずしも600兆円目標にこだわる必要はないのかもしれない。
一人当たり富裕度が、トップランクを維持できる限り、頻繁に行われる名目GDP発表で、増減数値に一喜一憂する必要はない。やみくもにGDP増加スピードにこだわり、かえって国民の豊かさを奪わないように、GDPの質に留意して、施策を進めるべきだろう。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。