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見えてきた経済大国インドの光と影

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出典:jp.reuters.com

インドは、世界第2位である約12億人以上の人口(日本の約9倍)と、ヨーロッパ全体に匹敵する広大な国土を持ち、GDP世界第7位の経済大国でもある。

インド経済は中国を上回る経済成長率を維持しており、将来的には仏・英を抜いての世界トップ5入りも視野に入ってきた。
しかしながら、中国経済に比べてインド経済についての情報は意外に少ない。
ここでは、インド経済の特色の幾つかにスポットを当て、今後のインド経済の可能性を考えてみたい。

インドはIT先進国

インドのIT産業の規模はこの20年間で2~30倍になったと推計され、ソフト輸出額は2016年には100億ドル(米国に次ぎ世界2位)を越えた模様だ。

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その背景には、ゼロを発見した国の伝統、幼児から3桁掛け算で鍛えた理数系に強いインド民族の特性、日本の数倍と言われる高度IT技術者数、米国との時差を生かしたIT企業からの受注機会等、多くの理由が挙げられているが、「カースト制度」による差別も理由の一つである。

インド世界は世襲的な職業に細分化され、他カーストへの就職はタブーだ。しかし、新しい職種であるIT業はカースト制度の外にあるため、多くの(下層カーストの)学生がIT職を目指したのだ。

カースト制度の今後

インドを代表する宗教、ヒンドゥー教に起源を持つカースト制度は、職業選択だけではなく結婚や生活全般に関わり多くの定めがあり、現在のインド社会に大きな影を落としている。
しかし結婚に関しては、カースト婚と並んだ大きな障害である「持参財(ダウリー)」という結婚に必要な持参金制度が1961年に非合法化されたこともあり、従来は家同士で決められていた結婚も、恋愛結婚事例が徐々に増加している。

日本人の感覚からすれば非常にゆっくりした変革だが、こうした変化が結婚だけではなくカースト制度にも変化の流れを作り始めている。
ただ、逆に将来的には、カーストを越えた職業選択の自由が広がり、優秀な若者のIT業志向が減る可能性も指摘されている。
(一方で持参財制度の形骸化が進めば、女子の結婚機会が増え、さらなる人口急増の可能性がある。未来のインド就職事情は混とんとしている)

インフラ整備の遅れ

インドのインフラ、特に電力不足は深刻だ。インドのエネルギー消費量は米中についで第3位だが、発電能力と電力供給は、高いGDP成長率が生む需要の急拡大に対応できず深刻な電力不足が発生している。先進国に比べ、送電の電力ロスも大きく、経済成長の大ブレーキとなっている。(都市部での停電も頻発している。)

独立後、同様の経済的背景を持っていた中国にインフラ整備の面で大きな後れをとった理由の一つは、共産党政権下の中国とは異なり、社会資本整備事業に国民の抵抗が可能であることだった。特に、地方では電力などの需要が低く、発電所や送電施設建設への反対運動が、電力インフラを遅らせてきた大きなファクターだ。

もちろんインド政府も、2017年までの五カ年計画に1億kWの電源開発を盛り込むなど、幾つかの施策を掲げ、日本からの政府・民間の技術協力も進んでおり自然エネルギーの利用拡大も含め、徐々に電力不足解消へ進んでいる。
しかし、現状ではインドの発電設備は石炭火力が7割を占めており、かつては豊富だった国内石炭生産は、近年輸入が増え、発電コストが増加した。このため、持続的経済成長には他の発電方法の早期推進が早急に必要だ。

また電力以外にも、河川を含む表層水の七割が汚染されている水資源の不足や、歩車道の区別や車線区別の少ない道路に急増した車両が殺到する悪性の交通渋滞、事故や公共交通機関不足等による輸送インフラの不備など、インフラに関する課題は多い。

国内産業保護が生んだインドの製薬産業

独立後のインドは、工業生産品の自国生産を掲げ、国内産品の保護優遇策を推進し、その結果、殆どの工業製品が自国で生産可能となった。

医薬品についても、手厚い保護政策として先進国医薬品の模倣生産が事実上解禁されていたため製薬産業の基盤が強化された。インドの製薬会社には博士号取得の化学技術者も多く、高品質の薬を安価につくる技術力に加え、政府も研究支援に力を入れている。インド経済共通の安い人件費も強みだ。現在では世界5位の規模の300億ドル近い製薬生産能力を保持している。

ただし莫大な経費をかけて創薬した製品の事実上のコピー生産容認には、諸外国から知的財産保護の問題が厳しく指摘され、近年は著作権保護と関連する製薬産業の構造的変化が要請されている。

インドの製鉄、自動車産業

インド財閥タタ・グループの中核となる鉄鋼メーカー、タタスチールを筆頭に、世界全体の約5%を占める鉄鋼業、2016年に韓国を越えて世界第5位の生産が見込まれる自動車業ともに巨大な国内市場が支えている。

自動車生産は、スズキや現代自動車など外国資本のメーカーによる生産のシェアが大きいが輸入車の規制は他の産業同様に厳しく、また道路事情や国民の所得水準も全体としては低いため、こうした国内産業には大きな伸びが期待できないのが現状だ。

インドの産業の今後

これまで見てきたのはインド経済のごく一部産業でしかないが、GDP同様、世界の中でインドの産業が占める割合が大きいことは間違いない。
しかし、全ての産業に共通する国内産業への行き過ぎた保護政策とインフラ等の整備遅れによるコスト増加などのマイナス面と、豊富で安く質の良い労働力等のプラス面が相反している。

インド経済は原則としては自由経済であり、膨大な人口を背景に最近のGDPの伸びを上回る潜在成長力を有していることは間違いないと思われるが、対外貿易は1991年の貿易自由化以降も国際収支の赤字が続き、様々な規制等もあって貿易規模は、GDP規模に比べかなり小さい。


世界有数の多言語国家であることの経済的ロスも大きく、これまで見てきたカースト制、インフラ整備、過剰な国家保護政策等、多数の経済課題が今後どのように克服されていくかは、未解決の問題だ。
逆にそれらの課題が解決する際には、予測を上回る経済成長の可能性を秘めているインド経済には、これからも目を離せない。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。