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Money Clip

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トランプ米国大統領就任後の経済リスク

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出典:jp.reuters.com

トランプ大統領就任後の世界経済、市場動向の推移は就任間近となった現在も不透明要素が多く、経験則が当てはまらない経済リスクが専門家により多数予測されている。

そうした今後の経済リスクの一つとして、トランプ就任後の為替変動リスクがもたらす日本経済への影響を中心に考えてみたい。

予想外だった2016年大統領選後のドル高

トランプ次期大統領が選出された米国大統領選後、多くの予想に反し米ドルが短期間に急騰した理由については、既に多くの分析が行われている。この米ドル高の直接的な理由が、米国長期債金利の上昇であることに異論は少ない。

www.americakabu.com

だが、米国債券金利の急上昇の理由について、「大統領選前から米国企業の収益は最高レベルであったので、大統領選出という不透明要因が消えたことによる自然な市場反応」から、「FRBの利上げペースが予想を越える加速であるという観測」、「トランプ政権の大規模な財政出動など積極経済政策への期待」、「大幅減税による米国景気の浮揚」、「年当初から積みあがっていたドル売りポジションの解消買い」など、数多くの理由が挙げられており、いずれも相当の根拠を持っていると考えらる。

しかし、選挙後のドル急騰があれだけのスピードとなったのは、トランプ大統領選出という想定外の事態以上に、米国株高、ドル高の事前予想が非常に少なかったからだ。

外国為替の取引量を正確に計測するのは非常に困難だが、少なくとも日銀が公表している時系列統計や国内FX業者の公表する円/ドル取引量をみると、2016年の取引量は11月以降急上昇しているが、それでも前年度より低水準で、為替ディーラーにとっても、「トランプドル高」は予想外の展開だったことがうかがわれる。

トランプ米国大統領就任後に、こうした想定外の市場変動、急激かつ大幅な為替変動に関するリスクの発生可能性は無視できない。

経験則では予測できない為替変動事例

外国為替市場のリスク計量は、国際決済銀行(BIS)発表の取引量(1日当たり8兆ドル超)から分かる様に、市場規模が非常に大きく、各国中央銀行等による長期間の為替変動コントロールが不可能に近い困難さがある。
これは、日本経済にとっての円高/円安の影響が非常に大きいにも関わらず、日銀による大規模な為替介入が難しい理由ともなっている。

トランプ政権は、その人物背景や経済政策への言及などから、レーガン政権との類似が良く取り上げられるが、そのレーガン政権時代のプラザ合意(1985年)は、通貨変動の範囲が予測困難である象徴ともなっている。

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出典:kapok.mydns.jp


当時ドル高是正の各国協調介入の効果は、極端な結果となった。
当時の竹下蔵相の「円は190円まで上がっても大丈夫・・・」発言に見られるように、最終的に2倍の120円台まで進んだ円高は、前例のない協調介入の結果予測が、専門家にも不可能であったことを示している。

プラザ合意後の急激な円高は、決して「日本いじめ」などという単純なものではなく、主要国の前例のない「協調介入による適正水準への為替レートソフトランディングは可能」という認識が机上の空論であったことを物語っている。

では、トランプ大統領後の為替変動はどうなりだろうか。
トランプ政権発足後の為替水準が、大統領の発言によって急激に変動する可能性は多くの識者により指摘されているが、ドル高方向、ドル安方向いずれも、プラザ合意の為替変動幅に比べれば、比較的小幅となっている。
これは、為替市場の成熟と、経験を踏まえたEUを含む各国中央銀行の適切な対応も期待されており、急激かつ大幅な変動は、自律的に一定範囲に収まるものと考えられているからだ。

しかし、今後数年間以内に、確率は非常に低いとしても、例えば、1ドル60円以下の円高や180円を越える大幅円安水準が起こりえない理由を明確に示す示唆は少ない。

ここで改めて考えたいことは、経済リスクとしての為替変動の限界を完全に事前予測することは不可能であり、あくまでも確率的に妥当と想定した範囲を想定しているだけでしかない。

円安はどこまで進むのか?(超円安の先にあるもの)

現在想定されている円安レベル予測は、一定レンジ内の動きであることを暗黙の了解としている。一昨年の円安の際に、当局による「極端な円安」への懸念発言も想起される。

しかし、今後、将来いつかは確実に行われるべき日銀の政策転換、国債買い入れ縮小からマネタリーベースの調整に至る変化から、円価値の希薄化に市場の目が向かった場合、想定範囲に円安が留まる保証は、実はどこにも存在しない。

これまでも為替相場が大きく変動した場合には、想定レンジを大きく越えた極端なレベルまで突き進む事例は多く、円安局面が(国内市場関係者の期待通り)進行した場合、期待レベルで止められるかどうかは予断を許さない。
そうした円安予測も少数だが、最近は専門家の間に現れている。

円安はどこまでが株高ファクター?(超円安の先にあるもの)

こうした急激かつ大幅な円安が発生した場合、変動相場制移行後、「想定外の円高」は経験し、直近の円高経験は記憶に新しいが、「想定外の円安」の経験がない市場はどのように動くのか?

多くの経済予測は「円安は輸出企業にとって大きなプラス要因であり、日本経済全体として好ましい」というものだ。
だが、債券急落、金利上昇が、1ドル150円を越える極端な円安に向かった場合、中長期的には原材料等のコスト上昇が、内需や製造業の生産コストにマイナスに働くことは間違いない。
また、円安が一時的なものでない場合には、プラザ合意前の貿易摩擦などが発生し、再び急激な円高が発生、日本経済が大混乱に陥る可能性は非常に高い。大幅な円安が、短期的な株高と中期的な反動株安を招く可能性が高いのではないか。

リスクヘッジが難しいトランプ後の経済リスク

こうした極端な円安シナリオは、現時点では実現可能性はまだ低い。
しかし、トランプ新政権の経済政策は、米国史上例のない実業家大統領の主導するものであり、過去の統計や経験則を裏切る斬新な(あるいは極端な)政策が打ち出される可能性は否定できない。

www3.nhk.or.jp

想定外の政策であっても、一定の経済メリット(少なくとも米国にとっては)を期待するものであろうが、それが期待通りの経済的な変化となる保証は存在しない。むしろ、前例のない混乱を生む可能性がある。トランプ後の経済リスクの一つとして、為替水準も理論的変動範囲を越える急変の想定は円安、円高の双方ともに必要だ。

こうした予測不可能の経済リスクが発生に対応するリスクヘッジ手段には限界がある。想定外のリスク、換言すれば可能性の少ないヘッジ方法には、ニーズが少なく、コスト高(高価格)となるからだ。( 保険理論上も、0.1%以下のリスク対応は、コスト算定が非常に困難で、事実上商品化が難しいとされている。

逆張り型のETFなど、幾つかの選択肢はあるが、中長期の経済リスクに対応できるものではなく、コスト負担や為替ヘッジのコスト変動も含め慎重な検討が必要だ。

リスクの計量こそ、投資の基本

ここまで考察してきたトランプ大統領の世界が招く経済リスクだが、もちろん、為替リスク以外にも、直接的な保護主義政策による機会損失、米国以外の国の防衛コスト負担等や、その他の未だ想定すらされていない経済リスクが数多く存在するものと思われる。
しかし、リスクテイクのない投資も存在しない。既に、幾つかのメディアでは指摘されているが、リスクが大きい投資程、リターンは大きく、適切なリスクヘッジがあれば、大きなトータルリターンが期待できる。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。